Unknown Sick-18
「あの」
「あぁ、話があると言っていたね」
主任は首の骨をコキコキと鳴らし、オレに向き直る。
「実は……」
前のコンビニで話した内容と、ほとんど同じものを話した。余命のことは伏せて、短く。だが、辞める、とは言えなかった。俺にはもうこの仕事しか残されていないから。
主任は驚きと悲しみのような表情を浮かべ、言葉に詰まる。
「そうなのか……」
「はい」
「冗談じゃないんだね」
「残念ながら」
大きくため息をつくと、主任は暗い空を見上げる。
「君はよく働いてくれる。だが残りの仕事はもういい」
できることならこの仕事は続けたかった。だが仕方ない。いつ倒れてもおかしくない奴を使い続けるわけない。正しい判断だ。
「……ありがとうございます。それと、ご迷惑おかけします」
軽く頭を下げると、俺はバイクのヘルメットをかぶり、バイクを停めてある場所へと向かった。
何もかもダメになっていく。これで俺はダメ人間だ。仕事がなくなった。貯金は少しだけならある。半年くらいは生活できるが、それ以降はどうにもならない。
すでにスピードメーターは百を軽く超えている。目の前にいる自動車が走馬灯のように流れていく。赤信号だろうと走らせる。通行者がいようともブレーキをかけずに無視して通る。
やがて後方から、やかましいサイレンと赤ランプを光らせる車が追いかけてくる。
「知るか、くだらない」
バイクの小回りを利かせ、パトカーが通れないような道を選びながら走る。頭の中にはしっかりとルートが刻まれている。悠々とマンションに辿り着くと、地下駐車場へと向かう。
そして、後輪に付いている鞄の中からナンバープレートと工具を取り出す。自分の本来の番号である〇二一七を取り付け、偽のナンバープレートを鞄にしまう。
大きく深呼吸して、自分の気持ちを落ち着かせる。
問題ない。何もミスはなかった。誰も轢いてはいないし、俺の後ろを警察だって付いてきてない。大丈夫だ。
荒い呼吸を抑えながら、エレベーターに乗り込む。いくらバイトで疲れていると言っても、この呼吸はおかしい。パトカーに追いかけられたことによる極度の緊張のせいか。いつもと言うほどではないが、何回か追いかけられているから慣れているはずだ。それなのに、何故だ。何故こんなに苦しいんだ。
エレベーターは八階に着く。壁によりかかりながら降りる。相変わらず呼吸は荒い。
苦しい。呼吸ができない。身体が熱い。