Unknown Sick-13
少し遅い朝食後、藤堂は大学に行く準備のために自分の家へと戻った。
「じゃあ俺もそろそろ帰るわ」
「あぁ。気をつけて帰れよ、雅也」
「今日は送ってくれないのかよ」
「悪いな。やりたいことがあるんだ」
「はいはい」
雅也も帰っていった。やりたいことは特にない。ただ、送るのが何となく億劫だったからだ。
大きく背伸びをして、キッチンに向かう。三人分の食器を洗わないといけないと思うと嫌になるが、仕方ない。その後は掃除機をかけて、もう一度寝よう。
かちゃかちゃ。
かちゃかちゃかちゃ。
かちゃかちゃかちゃかちゃ。
単調で欠伸が出そうなリズム。単調作業は俺が一番嫌いな作業だ。どうせ何かをするなら、変化のある方が断然楽しめる。
食器を洗い終わって、掃除機を持つ。姉のお気に入りをそのまま押し付けられたものだ。その姉は新しいお気に入りを使用しているわけだが。
「俺の家は都合のいいゴミ置き場じゃないのにな」
一人文句を言って、掃除機をかける。この掃除機は静かなのでそれなりに重宝している。
スイッチを入れようとした瞬間、目眩がする。ただの目眩じゃあない。俺の意識を食い散らかすような、乱暴なものだ。それに抗える術もなく、倒れこんだ。意識が完全に失われる直前、「余命一年。いえ、一年もないでしょう」という言葉が浮かんだ。
◆
二階堂正和は、幼少の頃から賢かった。何をやっても器用にこなし、何事にも勝てる者など周りには存在しなかった。
しかし、優れている分、彼には劣っている部分があった。感情表現というものが皆無に近かった。笑うことはなく、泣くこともない。同じ年齢の子供たちにとって、それは不気味だったであろう。仲間はずれといういじめに発展するのも当然であった。
それでも正和は変わらなかった。机に落書きされたこともあった、少し席を外している間に、教科書が切り刻まれもした。それでも正和は泣きもせず、誰かに助けを求めることもなかった。