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彼な私
【少年/少女 恋愛小説】

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彼な私-8


あの日から、春樹はクラスの中で孤立している。尚は当たり前だって顔で、春樹と目を合わそうともしない。
そんな日々が続き、6月最初の日曜日、体育祭の本番を迎えた。
―キィーっムカツクぐらい晴れてるっ焼けるぅ〜…
そして体育祭は始まった。相変わらず春樹は一人…
―…春樹…
分かってる。全て嘘だった。でも残っている…残ってるのだ…春樹の手の温もりが…春樹の言葉が…
―…だめ…やっぱり好き…好きだよ春樹…
私の目は、一人たたずむ春樹から離れない。
「杏ちゃ」
ビクっ
いつの間にか隣に来ていた尚、わざとらしく杏を呼んだ。
「なん?だいたいさー尚の‘ちゃ’使うとこ間違っとうちゃ」
杏、尚の肩を叩く。
「間違ってねーだろっちゃ」
「違うちゃ、そこ使わんちゃ」
「お前だって使ってるじゃんちゃ」
「だけ違うちゃー」
そんなやり取りの最中、尚はチラチラ私の顔をのぞき見る。いつものにやけ顔で…
―なっ、何よっ、そのうらやましいだろって顔!!あーあー、はいそうです!!うらやましいですっ妬いてますっムカつきます!!
「もう、なんやったん、私集合かかったけん行くねー」
杏、出場の集合がかかり走り去った。
「タケ子〜、お前わかりやす〜全部顔に出てますよ〜」
尚、私の顔をつつく。
「もうっそんなことするなら言っちゃうよ、鈴ちゃんのことぉ〜」
私、尚を真似てニヤリと笑った。
「どうぞ〜俺はすでに覚悟できてるし〜誰にバレたって痛くもかゆくもねーんだよ」
尚、ニヤリと笑う。
「うっ…」
―ま…負けた…尚のニヤリには到底勝てない…
「それより、お前さっき春樹見てただろ?」
「え?」
「まさか、やっぱりまだ好き、とか思ってんじゃねーだろーなー」
「……」
―なっ、何で分かるのよー
「お人好しもいい加減にしろよな〜あんだけ言われて悔しくねーのかよ」
「…でも…」
「…ったく、フォークダンスの入場春樹とだろ?いいのか?」
「…うん…いい…」
「あのな〜…杏にしとけって」
「…うっ…ねぇ、やっぱり変だよね?」
「何が?」
「杏の事…」
「どうして?」
「…私、心は女だし…しかも二人同時に…」
「…いいんじゃね」
「…え…」
「二人同時ってのはちょっと厄介だけど、人を好きになるのは男でも女でも、人間(ひと)が人間(ひと)を好きになるんだからさ、兄妹(きょうだい)でもな」
「尚…」
今の尚のニヤリ、すごく優しいニヤリだ。
「自分の気持ちに真っ直ぐでいろよ、それがタケ子のいいとこじゃん」
「尚っていいやつだったんだね〜…」
この間から尚には助けられっぱなしだ。
「アホっ、ほら、杏走るぞ」
私の頭をこづいた尚の顔は赤いように感じた。
尚の言葉通り私たちの前を杏が駆け抜けて行く。
キュンー
その姿はキラキラで、だからなのか、胸が…締め付けられる…痛くて、痛くてたまらない…
本当に、尚の言う通り…好きって気持ちは男も女も兄妹も関係ない。わずらわしいものを全て無に変える力があるんじゃないかと思う…‘人間(ひと)が人間(ひと)を好きになる’…尚の言葉が胸を熱くした。それは何かを覚悟しているからか、何かを乗り越えたからか、…乗り越えてしまったからか…

フォークダンスの時間がやって来た。フォークダンスは毎年最終種目で、三年生が制服に着替えて行う。もちろん私はセーラーだ。
入場門にパラパラと制服姿の生徒が集まってくる中、南原の声が響く。
「だらだらするな!!最後の種目だ、気合い入れろ!!」
―…ヤバイ…見つかったら着替えろって言われるぅ〜っ学ランいやぁ〜
私、顔を隠しながら列に入り込んだ。が、目ざとい南原は私めがけて歩いてくる。
―え?やぁ〜だぁ〜本当にやだっ、私、これだけは、これだけはセーラーでやりたいのっ!!
「いい思い出になるといいな…」
―え…
ぽんと肩を叩いた南原、優しく笑うと去って行った。
「ほらっ早くしろっ!!」
そう怒鳴りながら…
―…センセ…
そして、アナウンスが流れ入場曲が始まった。
そしてふいに手を握られた…
どきっー
そうだ、春樹と入場だった!!
―…顔が見れない…
私、顔を伏せたまま歩きだした。
―…春樹の手…あったかい…
「タケ子…ごめんな…」
―え…
そう言った春樹、私の手をぎゅっと強く握った。あの時と同じように…
きゅんー
―…春樹…
溢れそうになる涙を、私は必死で飲み込みながら春樹の手を強く握り返した。
―止まって…このまま、このまま時間が止まって…止まって…
だけどダンスの曲が流れだし、春樹の手がゆっくり…ゆっくり離れていく…
今まで暖かかった手に風があたって、春樹のぬくもりまで奪われたようだった…
―…春樹…
あっという間に体育祭は終わってしまった。
「タケ子、打ち上げ行く?」
教室での写真撮影で私の隣に並んだ尚が言った。
「……行かない…尚は?…」
「俺もパス、この後デ・エ・ト」
尚、カメラに笑顔を作りながら小声で言う。
―…デっデート…いいなぁ〜…私もしたぁ〜い…
私の頭に笑顔の杏が浮かんだ。
―え!?そっち!?…じ、自分の思考についてけない…私…
私、ぐったりして重たい足を引きずりながら学校をあとにした。
「タケ子くーん」
ドキッー
―杏?
杏、振り向く私に駆け寄って来た。
「一緒帰ろ」
「う…うん…」
―嬉しいっ…んだけど…今日は果てしなく疲れてて…
「ねぇ、行くやろ打ち上げ」
「…ううん…疲れたから帰って寝ようと思って…」
「ええー…行こうや、タケ子君来な面白くないやん」
「え…でも…」
「行こうや〜」
杏、私の腕をとり左右に揺らす。
―うわっ…かわいいっっ
「うん行く」
その後私は、待ち合わせ場所に一番のりしていたのだ…


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