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彼な私
【少年/少女 恋愛小説】

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彼な私-9


―かわいい…かわいいっかわいいっ!!かわいすぎるっ!!
カラオケの間中、私は杏に釘付けだった…
だって、あんなかわいい顔してクネクネ踊る。
―…もうだめ…今日は本当に…もう…疲れた…
私、カラオケ屋を出てひんやりした風浴びた。
「二次会行く人〜?」
夢子が叫ぶ。
夢子の母親がスナックをしているので、そこを貸し切るのだろう。
「タケ子行くでしょ?」
私、夢子にがっちり腕を掴まれた。
「…か…勘弁して〜…今日は本当に…」
「…春樹…来なかったね」
どきっー
―ああ〜…せっかくいい気分だったのに…何でその名前出すのぉ〜…
「…いいよ…今日は解放したげる」
夢子、優しい笑顔で私の頭を撫でると、帰ろうとする人たちの腕を次々に捕まえ始めた。
―…夢子…
「タケ子君…帰ると?私も帰るけん一緒帰ろ」
ドキッー
杏が夢子に気づかれないよう私に近づき小声で言った。
「う、うん」
今日の杏は白のジーンズにTシャツ、そしてジャケットを羽織っている。
―…この前、私が言ったからかな…ちょっと残念…いや!!いいのよこのくらいでっ!!
私と杏は、夢子の様子を伺いながらその場所をゆっくり離れた。
「あーよかった。夢子っちあんなキャラやったんやね…」
杏、夢子の姿が見えなくなるとほっとしたのか、クスクス笑いながら言った。
「…ゆ、夢子ね…高校卒業したらお母さんのスナック手伝うらしい…店舗拡大するって意気込んでるよ」
私、杏の笑顔から目をそらすと、沈黙が怖くてそんな話題を出した。
「そうなん?でもやってけそう」
杏はそう言ってまたクスクス笑う。
トクンー
意識が遠くなる…冷たい風とあったかい杏の声…そして自分の心臓の音が調和していく…
「タケ子君ごめん、ちょっとコンビニ寄っていい?」
「!!っ、う、うん」
―あ、あぶ、危ない…危なかった…
杏といると気が抜けない。だって、本気で抱きしめてしまう…
私、杏の後を追い店の中へ入った。
「いらっしゃいませー」
―!!
聞き覚えのある声に私、体が固まった。
―春樹!?
「タケ…」
体が固まったのは春樹も同じようだった…
「すみませーん」
レジからお客の声が響き、春樹は私から目をそらしレジへ向かった。
―…やだ…
私、慌てて外へ飛び出す。
―え?何で?何してるの?
「タケ子君、ごめんね行こ」
そんな私の様子を見ていたのか、杏が私の後を追い店から出て来た。
「あ、い、いや…あの…大丈夫だから…」
そして杏、私の手をとり歩き出した。
―キャー…手…手…手が…手が…
私の体から汗が吹き出した。
―ちょっ…も…もういいよ…
「杏…も…離して」
私は必死に訴えた…が…言葉にならない小さな声が杏には届くわけもなく、私は杏のひんやりした手の感触と杏から放たれる甘い香りで頭が壊れてしまいそうになっていた…
コンビニの明かりが見えなくなったところで、ようやく杏は立ち止まり私の手も離された。
―ああ〜…も、もう限界だったわっ本当に危ないわっ自分が怖いわっ
苦しくて鼻と口、同時に息をする。
「ごめんね…」
杏が私の方へゆっくり向きながら言った。
「えっ、あ、なっ何が?」
「…春樹…」
杏、その名前を口に出しにくいのか、うつむいて言った。
「やっ、やだっ、大丈夫っ、それより何か買うんだったんじゃない?」
杏とは春樹の話題を避けたい。
「買えんやろ、あの状況じゃ」
「……そ…よね…」
―…やっぱり知ってるんだよね…春樹とのこと…
「帰ろっか」
「え…あ、ああ、うん」
今、全てを見透かされたように感じたから驚いた。杏を好きなこと、春樹を好きなこと、たがら杏には春樹の話をしたくないことも…
―…やっぱり…宇宙人よ…杏は…
「きゃっ」
その時、杏がよろけた。
「杏」
私、思わず腕を回し杏を受け止めた。
―え!?
そんなに力強く支えたつもりはない。だけど杏の体は浮き上がり、軽々と私の胸元にやって来た…
―なっ、ちょっ…
杏の香りが私の鼻を直撃し、無意識に私の腕に力が入る。
「…タ…タケ子君…ありがと…」
そう言った杏の声も私の耳には届かず、空いていたもう片方の腕も杏の体に回していた。
「…タケ…タケ子く…」
杏が私の腕の中にいる…
私は女だと、ずっとそう思って生きてきた。だけどこれは何?この生き物は…この腕の中にいるのは…異様に軽くて細くて、そのくせふわふわしてて…とても、とっても…
―気持ちいい…
ブルブルブルー
その時、私のズボンの中の携帯が震えた。
―ヒッ!!
驚いた私は、杏から離れ震える携帯をポケットから取り出した。
―だっ、だ、誰よー
「もっ、もしもし?!…え?…いえ…違います…違います!!」
―ええ?!間違い電話ですか?!
「…タ…タケ子君?」
「あ、あの、まっ、間違い電話だった、みたい」
私震える手で携帯をポケットへ戻す。
―気まずい…気まずいわっものすごく!!
「あ!!お、送る!!送る、家まで!!」
私、道の先を不自然に指差した。
「え…あー…うん…」
ドキドキが治まらない…杏の家までどの道を通ったか、何を話したか、私は何も覚えていない。ただ杏の感触だけが体に腕に…しっかり残っていて、無意識か意図的か、私は何度もその感触を思い返している。
―…もう一度だきしめたい…
そんなバカなことを考えながら…
そして、長い長い体育祭の一日がようやく終わったのだった。


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