投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

10年越しの約束の最初へ 10年越しの約束 50 10年越しの約束 52 10年越しの約束の最後へ

10年越しの絆<後編>-4

「いったぁ…」
「……え?水沢?」
音のした方向に目をやると、水沢がそこに倒れ込んでいた。上体を起こして、腰の辺りを摩っている。
「ボケッとしてないで、手くらい貸しなさいよっ!」
「えっ、あぁ…ゴメン……」
俺は手を差し出して、水沢の腕を引き上げた。水沢の体は思いの外軽くて、少々面食らってしまう。

「何、情けない顔してんのよ?」
水沢は制服を正して、パンパンと埃をはたきながら言った。
「落ち込んでる松田なんて、らしくないんだけど?」
「………」
(お見通し…か……)
「………ちょっと、何か反論しなさいよ」
「そんな気分じゃないから…」
水沢は俺の顔をマジマジと観察した後、首を振って大きな溜め息を漏らした。

「相談くらい…聞くわよ?」
「水沢には、相談なんてする気にもなれないよ」
「あっそ…なら、帰り送って?」
「は?」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
あまりに違和感がある話の展開に俺が目を丸くすると、水沢は怒った様に頬を膨らませた。
正直、水沢の思考回路がどうなってるのか…一度、その頭の中を覗いてみたい。

「なぁに?聖のことは送ってあげるのに、私のことは送ってくれないの?」
「いや、そういう訳では…」
「じゃぁ、どういう訳?」
「え、えっと…」
(だから…水沢の相手をしたい気分では……)
「決定ね。さぁ、帰るわよーっ!」
(はぁぁ!?)
水沢は、意気揚々と俺の腕を引っ張って歩き出す。まるで、『早く行こう』と親を引っ張る子供みたいだ。
(しょうがないなぁ…)
そんな水沢につられる様にして、俺はいつの間にか笑顔を浮かべていた。


しばらくは陽気にはしゃいでいたけれど、少し歩いた所で水沢は、不意に視線を落とした。
「………なんか…早くフラれちゃえばいいのに」
ぼそっと呟いたその言葉は、風の音に掻き消されてよく聞き取れない。辛うじて少し耳に届いた程度だ。
「え?なに?」
俺は反射的に訊いていた。
けど、水沢の頬を伝った一筋の涙に、それ以上は何も言えなくなる。
水沢が泣くなんて初めてだから、どうしたら良いか分からない。

でも次の瞬間、水沢はまた満面の笑みを浮かべて俺を振り返った。
「なぁんでもないっ!さっ、早く行こっ!」
そう言って俺を引っ張る姿は、もういつもの水沢だ。
(見間違い…だったのか?)
涙の陰なんか、もうどこにも無い。それどころか、何の悩みも無さそうだ。
けど、そんな水沢にだって悩みの1つや2つくらい有るハズで…笑顔を浮かべていても、泣きたくなる瞬間だって有るだろう。
(もしかして…我慢してる?)
明るく振る舞う水沢を見ながら、俺は何だか、やるせない思いを感じていた。


10年越しの約束の最初へ 10年越しの約束 50 10年越しの約束 52 10年越しの約束の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前