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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの絆<後編>-3

鈍感なのが宮木さん…理解していても、理解出来ない時もある。
普通の人が苦せずに気付く事にさえ気付けないのは、どういった訳なのだろう。
宮木さんの鈍さは、ある意味完璧だ。

昨日あんなやりとりが有ったにも関わらず、今日も放課後、宮木さんは俺と一緒に居てくれる。
初めはさすがに戸惑っていたみたいだけれど、今はもう、何事も無かったかの様に笑っている。
俺にからかわれている内に、昨日の出来事は忘れてしまったみたいだ。
自分からそう仕向けた筈なのに、以前と何も変わっていないのは、ホッとした様な…寂しい様な……

「松田君って、光輝君と仲悪いの?」
いきなりだった。
何の脈絡も無く、宮木さんがサラッと言ったその言葉…俺の動きを一瞬にして止める。
なんとなく覚悟はしてたけど…こうもハッキリ訊かれてしまうと、さすがの俺もツラくなる。
ちょっとくらいは、悟って欲しい。その理由を勘ぐって欲しい。
まぁ、宮木さんには無理な要望なんだろうけど……

「ね、ねぇ…松田君……」
「なに?」
「えぇっとぉ…」
宮木さんが俺の表情を見て、困った顔をしている。
けど、無理して平然を装ってみても、苦しみが強すぎて隠し切れない。いつもみたいに軽口を叩けないでいる。
俺の想いは米粒程にも伝わっていない…そんな残酷な現実を、宮木さんはいつも、何の前触れも無く俺に突き付ける。
以前の俺なら、あまり気にしなかった。そういう人だと、理解していたから。
でも、光輝のあの余裕の微笑みを見てしまった今…宮木さんの鈍感発言を、軽く聞き流せない。
俺の想いはこのまま伝わらないんじゃないかって…正直、焦る。

「………ハッキリ言わないと分からない?」
(本当に分からないの?本当は分かってるんじゃないの?)
俺は、宮木さんの瞳を見つめてみた。少しだけ…期待を込めて……
でも、その瞳は右へ左へと揺れるばかり…気まずいとでも言わんばかりに、ずっと俺の視線から逃げている。
(やっぱり…分かってないんだろうな……)
「分からないから訊いたのか…宮木さん、鈍感だもんね?」
「ごめん…なさい……」
宮木さんは唇をギュッと噛んで、申し訳なさそうにうつ向いてしまった。
悪いと思うなら、もっとちゃんと考えて欲しい…そう思うのは、俺のワガママなんだろうか。

気付いて欲しい。
ちゃんと考えて欲しい。
俺の…この想いを……

「宮木さんってさぁ、光輝の事ばっかりだよね?少しは…周りを見たことある?皆の…気持ち…とか……」
「……ぇ?」
「考えたこと…ある?俺が…どうしていつも宮木さんの側に居るか…とか……」
宮木さんは目を丸くして、表情を強張らせている。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに、言い出したら止まらない。今まで胸の内に留めていた言葉が、堰を切った様に流れ出す。
「考えたこと…無いよね?だからこそ、平気な顔をしてそんな残酷なこと訊けるんだよね?宮木さんのその鈍感さ…たまに憎いよ……」
俺は堪らなくなって、教室を飛び出した。

何故俺は、こんなにも鈍感な人を好きになってしまったんだろう?
どんなに近くに居ても、俺の想いは全然伝わらない。
こんな恋愛、哀しすぎる。
(ちゃんと…分かっていた筈じゃないか……)
理解していても、心のどこかには『いつか伝わる』という期待が必ず存在していた。
あまりにも青くて、甘い考え…己の浅はかさに、嫌気がする。


行く場所も定まらずにただひたすら走っていると、角を曲がった所で何かにぶつかった。
何とか倒れるのは持ち堪えた筈なのに、ドサッという音が耳に届く。


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