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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの絆<後編>-5

「はぁぁ…」
(どうしようかなぁ……)
気が重い。
一晩置いて少しは軽くなった気分も、放課後が近付くに連れてまた段々と重さを増して来た。
そして放課後…今やピークに達している。

宮木さんを迎えに行こうとしては、躊躇って…やっぱり行こうと思って…もう何度も、廊下を行ったり来たりしている。
宮木さんに会うのが怖い。
昨日あんな風に飛び出して帰ってしまった俺を、宮木さんはどう思っただろう。

(やっぱりダメだ…今日は宮木さんに会うのは止めておこう……)
何度目かに回れ右をした時、不意に明るい笑い声が耳に届いた。
「あははっ!それでね、瀬沼……」
声がする教室の中を覗くと、そこでは水沢が、光輝と楽しそうに談笑している。

(水沢…幸せそうだな……)
嬉しそうに顔を歪めて笑う水沢は、本当に幸せそうで…見ているだけで、微笑ましい気分になる。昨日の涙を見ているからこそ、余計にそう感じてしまう。
光輝の方もやけに楽しそうで、端から見れば恋人同士の様だ。

でも、その反面…どうしても考えてしまう事がある。
これを宮木さんが見たら…いったいどう思うだろうかって……
見て欲しい様な気もするし、見ないで欲しい様な気もする。
宮木さんがどんな反応を示すか想像がついてしまうから、俺の心境は複雑だ。


窓の外では、しとしとと…いつの間にか、雨が降り始めていた。
(今度こそ…迎えに行こう……)
俺は自分自身を奮い立たせて、宮木さんの教室へと足を向ける。
でも、すぐにその足は止まってしまった。
廊下の先…宮木さんがある教室の中を見つめて、茫然と立ち尽くしていたからだ。
口許に手をやったまま固まるその姿は、ショックを隠し切れないといった感じだ。
(二人のこと…見ちゃった…んだ……)
真っ直ぐ見つめるその視線の先に、さっき俺が水沢と光輝を見掛けたあの教室が在る。


少しして宮木さんは、両手で耳を塞いでダッと駆け出した。
前を見ずにうつ向いたままこちらへと走って来て、そのまま俺の胸に勢いよく飛込む。
「うわっ!」
ついとっさに、宮木さんを抱き留めた。
「だ、大丈夫?……って、宮木さん?泣いてるの?」
腕の中に収まる宮木さんは、肩を震わせながら俺を見上げる。その頬は涙に濡れていて、今にも壊れてしまいそうな程に儚げだ。
正直、宮木さんにこんな顔をさせる光輝が憎い。
きっと俺よりも、光輝の方が宮木さんを傷付けている。

「ま、つだ…くん……」
「どうしたの?」
「見たく…なかったのに……こんなの…知りたくなかった……もう…私…わかんないよ……」
不安定な程に取り乱す宮木さん…こういう時、どうしたら良いのか分からない。
「えっと…少し落ち着こうか?とりあえず、教室に入ろう。もう誰も残ってないから……」
とりあえず俺は、そっと宮木さんを教室へと導いた。


教室に入った途端、宮木さんは俺にすがりついて泣き崩れてしまった。大声を上げて泣いている姿は、痛々しくて堪らない。
こんな時、黙って背中を撫でてあげる事しか出来ない自分自身が悔しい。
どんなに止めてあげたいと思っても、俺にはこの涙を止めてあげる事が出来ない。きっと、光輝でないとダメなんだろう。
改めて…光輝が憎いと思った。


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