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透明な砂時計
【純愛 恋愛小説】

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透明な砂時計-3

予想通りというかやはり学校には誰もいなく、暖かさが飽和した校舎の壁は陽の光を浴びてどこか気持ち良さそうに見えた。
僕は日溜まりの中庭を通り過ぎ、光の恩恵を受けた階段を上り、風達が通り抜ける廊下を渡っていつもの教室へと向かった。 いつもの道も今日はいつもと違って見え、僕はそれが少し嬉しかった。
教室には当然誰もおらず閉め切った部屋の空気は暑くてたまらなかった。
僕は教室の窓を全て開け放ち、閉じていたカーテンも開けた。
ベージュ色のカーテンがヒラリと揺れる。その様は山を越えて行く渡り鳥みたいに力強く、朗らかであった。
僕は誰も居ない教室を眺め(絶景だ)ため息をついた。 無人の教室はまるでそこが世界から切り離された別空間かの様な錯覚を覚えるほど澄んでおり、綺麗であった。
僕は何故か無性に掃除がしたくなりたまらなくなる。
僕はしばらく自分を抑える為にそこにたまたまあった本を読んでいたが(伊坂 孝太郎の『重力ピエロだった。内容は何一つ覚えていない)なにか居たたまれなくなりやはり掃除をする事にした。

まず教室にある机と椅子を全て後ろに下げ、掃除ロッカーからホウキと塵取りを取り出し床を掃く。
ホウキが床に擦れるザッザッと言う音は僕をとても良い気持ちにさせてくれた。
僕は長い時間をかけて教室の隅々を掃きゴミを塵取りで集めて捨てた。それだけで教室は新しい空間になったようにキラキラと輝いた。
僕はまた長い時間をかけて雑巾であちこちを拭き、最後に黒板を黒板消しで綺麗にし、机を並べた。
整えられた机の列はこれまでの僕と、これからの僕を暗示しているみたいに歪で、不安定で、魅力的だった。




例えばそれは蝶の舞う様に華麗で優雅で繊細な訳で。
コツッとローファーが床を蹴る音は確かに彼女の存在を示していた。
僕が最後の机を並べ終えるその時に、彼女は現れた。

現れた彼女は華麗で優雅で繊細な訳では無くて、繊細だけを残して全てを超越した様な美しさだった。
いや――そうじゃない。
どうやら僕は彼女の美しさを表現する術を持たないらしい。今ほど自分の表現力を恨んだ日は無い。彼女はそれほど美しく見えた。
彼女は不思議そうな顔をしていて扉の少し後ろに立っていた。
僕はこれでもかってくらい、驚いた。




一瞬だけこの為だけに、僕に何かの才能が花開く。




僕らは昔から親しみを今日の為にとって置いたみたいに、自然に出会った。素敵であり、魅力的であり、感動的に。色で例えるなら“青に近い透明”みたいな。

「素敵な人なんですね」
と、彼女は言った。
それはたぶんだけど僕に発せられた言葉であり、たまたま口から溢れた声でもあった。 ひどく丸くひどく小さな声だった。
「私、夏休みに教室を掃除している人、始めて見ました」
なるほど。 僕も始めてやった。
僕は人生で一番緊張し人生で一番冷静なろうとした。結局、その努力は報われ無かったのだけれど。
「汚してく人はたくさんいるんですけどね」
と、そう言った僕の声は微かだけど震えていた。


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