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透明な砂時計
【純愛 恋愛小説】

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透明な砂時計-6

◆ ◆ ◆

ガラガラッと小気味の良い音が鳴るのと同じに彼女は教室に入って来た。 凄まじく機敏な動きで隙は見当たらない完璧な動きであった。まるで何回も練習を重ねた末の集大成、みたいな。
入って来た時よりはゆっくりと戸を閉めると、彼女は僕の前で確りと深呼吸をした。まるで始めからそうやる事が決まっていたみたいにキビキビとした動作だった。
僕は少しだけ、ほんの少しだけ緊張をし唇を舐めた。 まるで始めからそうやる事を決めていたみたいに自然にそう動いた。
彼女に眼をやると、まるで探し物をするみたいに困った顔して真っ赤になっていた。たまらなく可愛らしい仕草だった。
僕はもう一度だけ唇を湿らすと深呼吸をし、ため息をついた。 そして彼女の素晴らしさについて考え、彼女の愛らしい仕草について思案を巡らした。
そしてそれが今はふさわしく無いと言う結果に至り、僕は考えるのを止めた。
彼女は未だに探し物をしているみたいで、その顔には素敵な表情が浮かんでいた。

僕は今さらながら、彼女の顔の隅々の素晴らしさに気付いた。
細いと形容できるシュッとした頬に、思わずため息をついてしまう様な綺麗な鼻。まつ毛は存在を証明する様に長く、控え目な眉毛は彼女の為に綺麗なカーブを描いている。 大きな瞳には絶えず僕の姿が写る程澄んでおり、赤縁の眼鏡によってどこか輝いてさえ見える。
その全てが僕を魅了し、彼女を愛しく魅せた。
耳から頬にかけてが紅く染められており、若干の上目使いが僕の胸を素敵に打った。
とても素敵に――

僕が僕自身の中で彼女に惑わされている間に、彼女の準備は整った様だった。
整った事で頬はさらに紅さを増した様子で、それにつられて僕の頬も朱色に染められた。
大きな潤んだ眼が僕を一心に見つめ、少なくとも僕の心を覗こうとする。僕は不思議な心地良さに身を委ね、彼女の言葉を待った。
彼女も彼女で自身の言葉が形成されるのを待った。

――それは、長い長い一瞬であったし、とてつもなく短い数瞬でもあった様に思う。僕の感覚はどこかで異常をきたし、何らかの作用をもたらして時を支配した。
やがて僕らの間には煩わしい空間が消え去る。世界は僕らを残して白み、世界は僕らが息づく音だけになる。世界の空気は僕らによって澄んでいき、世界の色は僕らを表現する為に存在した。
僕らの望んだ全て世界が僕ら自身であり、透明だった。
――透明?
僕は僕自身の答えに疑問を持つ。

そして彼女は遂に、その言葉を発した。

気付けば僕は自身の色を失い、僕は僕では無くなっていた。でもそれはとても素晴らしい事だし、素敵な事だった。
僕らは互いを確かめる為に手を取り合い、キスをした。

そうして、僕の人生で最長の10分間は終わりを告げたのだった。


◆ ◆ ◆

「終わりじゃないんです。これは始まりなんですよ。」
と彼女は言った。
「終わりじゃない。これは始まりなんだ」
と僕も言った。
そういって僕らは砂時計をひっくり返し、また新たな時を測り始めた。

透明な時を―――


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