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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの嫉妬-3

「水沢はね、光輝のことが好きなんだよ」
松田君の言葉が、妙にハッキリと聞こえた。
(言わないで…ほしかったのに……)
足の力が一気に抜けて、私はその場に崩れ落ちる。
“絶望感”というよりも、“やっぱり”という気持ちに支配されている。
なんとなく…絢音は光輝君の事が好きなんじゃないかと疑ってた。でも、必死にそれを心の中で否定してきたのに…

「あの二人はね、以前から…宮木さんが光輝に再会するずっと前から…仲が良かったんだよ」
(もう…やめて……そんなこと…聞きたくない……)
「二人はきっと…両想い…なんじゃないかな?」
(あぁ…だから…嫌だったのに……)
松田君の言葉が、ズシリと胸に重りを落とす。涙は渇れて、一滴の雫も出て来ない。
他のどんな感情よりも…得体の知れない虚脱感が、私自信を支配していた。


気が付くと、窓の外はどしゃぶりの雨で、遠くの方では雷が鳴っている。
私は冷たい床に座り込んだまま…時間だけが過ぎて行く。
もう考えたくは無いのに、いつまでも松田君の言葉が脳裏から離れない。あの雷鳴の様に…何度も何度も鳴り響く。

「あれ?まだ誰か残ってんのか?」
急にガラッという音と共に、教室のドアが開けられた。
耳に届くその声に、私は身を強張らせる。
(光輝…君……)
「なんだ、博也か…えっ、聖?」
入り口付近で、光輝君が私の姿を見て絶句している。
それもその筈…私は今、たぶんひどい顔をしてると思う。泣き腫らした瞼が、熱くて重い。

「ひ、じり…なんで泣いて……」
「光輝君には…関係ないよ」
「博也、まさかお前…」
光輝君が、松田君を鋭く睨む。
「人聞き悪いなぁ…自分の胸に手を当てて訊いてみたら?光輝“君”?」
「な、にを…聖、博也に何か言われたのか?博也のせいなのか?どうして泣いて……」
(もう…ヤダ……あんまり私に構わないでよ……)
「関係ないって、言ってるじゃないっ!ほっといてっ!」
私は吐き捨てる様に言うと、そのまま光輝君の横を素通りした。

「あっ、宮木さん、ちょっと待って!じゃぁな、コ・ウ・キ“君”!」
足早に教室から去る私を、松田君が追い掛けてくる。
光輝君はそのまま…何も言わないし、追い掛けても来ない。

分かってる。
これがただの八つ当たりだってことは、ちゃんと分かってるの。
でも今は、光輝君の姿を見るのがツラい。それに、優しくされたらもっとツラいの。
だから今だけ…逃げさせて。


松田君の制止を振り切って校舎の外に飛び出すと、強い雨が見慣れた景色を寂しいものに変えていた。
いつもならこんな景色に色合いを添える傘も、今は全然見えなくて…まるで私だけが、悲しみの中に取り残されているみたい。

横殴りの雨が、私の身を刺す様に打ち付ける。冷たい感覚が、容赦なしに私を襲うの。
痛い…
だけど今は、もっともっと打ち付けて欲しい。
この心の痛みを相殺してしまう程に…もっと強く……


傘も差さずにずぶ濡れになって帰った私は、案の定風邪をひいてしまった。
親にはこてんぱんに怒られたけど、学校を休む口実が出来て良かったと思う。


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