dream・road〜last dreamer-6
「ぐっっ……ぐぁあっっ…!!」
痛みと共に心が折れ始める。激痛が心を蝕み始めるのを龍矢は感じていた。
(……いいのかな。もう…俺、頑張ったかな。ダニーだって、ミゲルだって、アイツだって……。)
アイツ?
龍矢は少し歩いたことろで立ち止まった。否、立ち止まることが出来た。
思い出せない。大切な人の名を。自分はこの人物のために闘っていたのだ。なのに……。
龍矢は、急にまた足が動き始めたことに気が付いた。足はずんずんと両親の下へと歩み寄っていく。
「待ってくれ!まだ、まだ俺は…あいつの名前をっ……」
瞬間、龍矢は後ろから誰かに腕を掴まれた。それにより自然に歩みも止まる。龍矢は後ろを振り向いた。
「うわぁぁああっっ!!あぁああ……!!」
龍矢がダウンをするほんの少し前に時は遡る。マリアは分娩室に運ばれ、自分の闘いを始めていた。
『セレンスさん、頑張って!』
入院中に仲良くなったナースがマリアの手を握る。握り返したマリアの手には、痛々しいくらいの力が篭(こも)っていた。
(痛い、痛い痛い痛いっっ………!!)
「うわぁぁぁあっ……」
元々マリアは若いと言うよりは幼い。いくらダンサーをしていても、体力も体格も決して恵まれているとは言えない。
何度も押し寄せる激痛の波は、マリアの体力を奪うには充分過ぎた。
「!……うわぁあああっっ………」
『セレンスさん!?セレンス!!セレン……』
ナースの声を聞きながら、マリアは意識が薄れていくのを感じた。
「タツヤ……」
マリアの呟きがナースに聞こえることは無く、マリアはそっと瞼(まぶた)を閉じた。
マリアが目を開けると、そこは見たことがない景色だった。桜並木の間を舗装されていない砂利道が通っている。
不思議なことに、マリアの腹部は妊娠する前の体型に戻っており、また痛みも無くなっていた。