dream・road-1
人類が二十一世紀を迎える大分昔、一人の少年がいた。
少年の住まいの近くには外人が住んでいた。
小さい頃から、少年はその外人になついていた。
外人は少年に世界を、英語を、そしてボクシングを教えた。
少年が十四、外人が十八の時、外人は自分の祖国…アメリカへと帰っていった。
それはなんてことはない人生の一コマに過ぎないだろう…。しかし、少年の胸には、いつまでも夢の灯がともっていた。
三年後、アメリカ・ニューヨーク。
この地に一人の少年が降り立った。何時か描いた夢を追い掛けるために…。
あてもなく街をぶらつくと、一軒のカフェを見かけた。とりあえず腹ごしらえをしたかったので、少年は中へと入っていった…。
中には陽気なジャズナンバーが流れ、客たちは、みな各々の朝を過ごしている。
少年は初めて異郷の地に来たことを強く感じた。とりあえずカウンターに座り、注文をとることにした。
「ヘイ、ボーイ!英語が出来るのかい?」
「まぁ…。カフェオレとベーコンサンドを」
「OK!!とびきり美味いやつをつくってやるよ!!」
あごヒゲがやけに似合う、白髪の黒人マスターは白い歯を剥き出しにして料理にとりかかった。
ガシャンッッ!!
「何してくれてんだコラァ!」
「ご、ごめんなさい…」
突然の音に後ろを振り向くと、外のテーブルで男が少女に怒鳴りつけていた。
周りを見ると、皆意に介していない。関わりたくないか、いつものことなのかどちらかだろう。
このまま無視してもよかったのだが、せっかくのアメリカでの初めての朝食を野郎の叫び声を聞きながら食べるのも、しゃくだ。
「ボーイ!?料理は!?」
「すぐ戻る。置いといてくれ」
外に出ると、男の声がさらに大きくなった。倒れたパラソル、男のシャツにつく黒い染み…少年の予想通りのことを少女はしてしまったようだ。
とりあえずこのまま見ていてもらちが開かないので、怒り狂う男に少年は声をかけた。
「クリーニング代なら俺が払う。代金もな。だから、許してやってくれないか?」
「アァ!?なんだお前」
「あ…あ…」
少女はなにか言おうとしているが、恐怖で声が出ていない。
少年は少女に微笑むと、男に向き直った。
「東洋人は引っ込んでろよ!!」
言うやいなや、男は拳を振り上げる。
少年の目が鋭くなる。
「ったく、容赦ァしねえぞ…」
「危ないッ!」
少女の悲鳴と同時に男の拳が少年を捕える。その刹那、男の体が吹き飛び道路に転がった。
少年は男に一瞥(いちべつ)をくれると、さらに一言付け足した。