dream・road〜last dreamer-19
「憧れた、か……」
ダニーは店の壁にかけられている写真に目をやった。
十年以上前に、当時の常連や従業員達と一緒に撮った写真。その最前列には、一組の少年と少女の姿がある。
弾けるような笑顔をした紅い髪の少女と、黒い髪に不器用な笑顔を浮かべる少年。
「また、俺に夢の道を見せてくれるのかな……」
新たな客が入ったことにより、ダニーの独白は終わった。
ニューヨークにある、寂れたボクシングジム。そのジムに、新しい入門者が入った。
年の頃は十三、四まだまだ幼さの抜けない紅い髪をした少年に、ジムの会長ミゲルは問いかけた。
「ボーイ、何でボクシングをやりたいんだ?」
「夢を、叶えたいから」
「夢?なんだそりゃ?」
ミゲルの質問に、少年は軽く一呼吸おいてから答える。
「ある男を…越えたいから」
「ある男?ケンカかなんだったら、もっと大きいジムがあるだろう」
「ここじゃないと駄目なんだ!俺は、アイツを越えたいんだ!」
少年はなおも食い下がる。ミゲルは少々呆れ始めていた。
「………誰を越えたいんだ?」
「……や」
「WHAT?」
「御堂……龍矢」
ミゲルは少年を見つめ直す。髪こそ紅いが、その顔には数年前に一線を退いた男の面影があった。
「ボーイ……名前は…?」
ミゲルは少年に聞き直した。ミゲルの記憶が正しければ…昔、その男がこの少年を連れてきたことがあるはず。もしそうなら、この少年の名は……。
「凍矢……御堂、凍矢!」
人は夢を見る。
少年と少女の夢は叶い、その夢の道を、また誰かが歩き始める。
少年と少女の物語はこれで終わりだが、また誰かが夢の道を歩き始める。
いつまでも、いつまでもドリーム・ロードは終わらない。
これは、夢を叶えるために必死に人生を生きた、少年と少女の物語である………。