dream・road〜last dreamer-5
『ファイッッ!』
レフェリー(審判)の声が響いた瞬間、ダミアンの頭の中で何かが弾けた。
(殺す!殺す殺す殺す殺すぶっ殺す!!!)
『ゥグァァアア!!』
野獣の叫び。長い黒髪をたなびかせて、ダミアンは弾丸となって龍矢へと襲いかかる。振り上げた右の拳は難無く龍矢の顔へとめり込み、再び白いキャンバスへ沈めた。
『ダウン!』
レフェリーの声が響く。その瞬間、ダミアンは己が右腕を上方へと突き上げた。
まだ第2ラウンド、試合で言えば序盤も序盤である。しかし、ダミアンは自分の拳に伝わってくる手応えに確信した。
(終わりだよ、ジャパニーズ……)
レフェリーが龍矢の目を覗き込む。その目からは光が失われていた。
気が付くと、龍矢は砂利道の上に立っていた。
「ここは……」
既視感、とでもいうのだろうか。目の前の景色は、数年前に別れを告げた日本の景色そのものだった。
辺りを見渡すと、ちょうど自分の真後ろに一組の夫婦が立っていた。
「母さん…父さん……」
そこには、随分前に流行り病で命を落とした両親が立っていた。
両親は微笑みながら龍矢に手を差し出す。龍矢は最初は意味が分からなかったが、それがこちらへ来いということだと、数秒考えてから行き着いた。
瞬間、自分の足がそちらへ向かう。龍矢は必死に歩みを止めようとしたが、まさに他人の足のように、言うことを聞かなかった。
「止まれよ!俺は、ダミアンとまだ……」
ダミアン。
その名を口に出した途端、身体中に激痛が走る。
顔、胸、腕、腹……。いたる所が悲鳴をあげる。それは、今の今まで龍矢が無視をしてきた身体の訴えだった。