dream・road〜last dreamer-2
そんな会場の二階通路に、リングを見下ろしている一組の男女がいた。
腰まで伸びた美しいブロンドの髪に、それに負けない端正な顔立ちをした女と、金の短髪が似合う、顎(あご)に手術根を残す男……。
ニューヨークにある人気シアター「ヘブンズ・ライン」のトップスター、レイラ・セルシウスと、龍矢たちの階級の前王者、カイ・オーウェンの二人である。
レイラは龍矢の攻勢に多少喜色を示していたが、カイは難しい顔をしたままリングを見続けている。
『まずいな……』
『え?』
第二ラウンドのゴング鳴ると同時に、カイは一言を呟いた。
『どうしてまずいの?タツヤが押してたじゃない』
『ダミアンが冷静すぎるんだ。ダウンを奪われたときに取り乱すと龍矢のトレーナーは思っていたんだろう。だが、予想は外れた』
『まだまだ、分からないってこと……?』
レイラはカイに問いかけたが、カイは返事をせずに試合を見始めた。
リング上では、一ラウンドとはうって変わって、ダミアンが試合の主導権を握っていた。
(くっ……!)
懸命に迫る龍矢をあざ笑うように、ダミアンは見事なステップで龍矢の突進を避ける。そして龍矢の拳の射程外から、機関銃とも形容できる程のジャブを繰り出す。
ガードの上からでもお構い無しと言わんばかりに降りかかってくる拳の雨に、龍矢は苦戦していた。
(クソッ、近付けねぇ!!)
接近戦を主とする龍矢に対し、ダミアンはどんな距離でも戦えるオールラウンドなボクサーなのだ。近付かなくては闘えない龍矢と違い、ダミアンはどの距離でも、その道のプロ以上に闘うことが出来る。今の状態はあまりにも分が悪い。
「チィッ!」
龍矢は一旦距離を取ると、すり足で少しずつ距離を縮め始めた。
だが、ダミアンは追撃をせずに、龍矢が来るのを待っている。
何故追ってこないのか……。龍矢の頭の中にはそのような考えは存在せず、ただ近づいて一撃をくれることだけを考えていた。
半歩ずつ、龍矢はダミアンにじり寄る。一瞬で懐まで飛び込むことが出来る距離まであとわずかというところまで迫った時ダミアンの顔に、ある表情が浮かんでいた。
(笑って……やがる!?)
ダミアンは笑みを浮かべながら龍矢を睨んでいた。
明らかな劣勢、どうにかしてこの局面を打破しようとしていた龍矢は、自分の考えを読まれていることにたった今、気付いたのだった。