dream・road〜last dreamer-15
「なんだってんだ?」
どうやら個室らしい部屋を見回すと、今度はダニーが座っていた反対側に、あるモノが置かれていた。
チャンピオンベルト。
それを見た瞬間、あの試合の時間が蘇ってくるのが自分でも分かった。
「本当に、勝ったんだな…」
少しずつ、実感が沸いてくる。あらためて現実を知っていると、病室にたくさんの人達がなだれこんできた。
近所に住んでいる老夫婦。市場のおばさん達や子ども達。ジムメイトも、練習を休んで見舞いに来てくれた。
「大丈夫か?」
「あぁ、まぁ…みんな心配してくれてたのかと思って嬉しいよ」
日が傾き人の波が引いた頃、ダニーと龍矢はようやく腰を据えて話し始めた。
「ダミアンだっけか、あいつ試合の後に車にはねられたそうだ」
「ダミアンが?」
「余程負けたことがショックだったんだろう。試合後に、みんなが病院へと連れていく途中で暴れ出して道路に飛び出たらしい」
「それで、どうなったんだ……?」
「命に別状は無いらしいが、腕と肩をやっちまったらしい。もうボクサーとしては……」
「そうか……」
自分が何度も何度も殴り、文字通り命がけで倒した相手が、たった一回車にはねられただけで壊れるという不条理。
いかにダミアンに憎い感情を持っていた龍矢でも、少しダミアンを哀れに思った。
「気にするなよ。タツヤのせいじゃあない」
「あぁ」
龍矢が相槌を打つのを確認すると、ダニーは腰を上げて龍矢を見据えた。
「動けるか?」
「あぁ…なんとか」
「ついてこい、タツヤ」
ダニーは龍矢がベッドから起き上がるのを促すと、一緒に病室を出た。
五分ほど歩き、ある病室の前で二人は止まる。ダニーは龍矢に振り返ると、その手に小さな箱を握らせた。