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【大人 恋愛小説】

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出会い-3

5月に会う前は、ホテルを予約するかどうかで信子は揺れ動いていた。信子はラブホテルは嫌いだという。だから、ホテルを予約しようか?と聞くと、それも困るという。信子のやや我儘かつ優柔不断な性格を認識し始めたのは、この頃からのような気がする。前の週は京都で仕事であったが、信子に頼まれて一澤信三郎帆布でカバンを買った。結局ホテルは予約しないで昼過ぎに郡山で会った。ドトールで珈琲を飲み、その後ホテルに行くかと思ったが、信子は食事がしたいという。ちょっと意外な気がしたが、駅前のビルのレストランでランチを食べる。仙台の夜よりは打ち解けた雰囲気だったように思う。この時、博樹が信子が嫌いな栗を使ったモンブランを頼んだことは、その後何度も言われることになった。ランチの後、ラブホテルに向かうことは、もう二人の暗黙の了解であった。この時、博樹が地図も何も見ないでホテルまで信子を連れて行ったことも、この後、何度も信子に言われることになった。5月だが真夏のような暑い日であり、汗のにおいが気になった博樹は、まずはシャワーを浴びた。シャワーを浴びて一緒にソファーに座り、唇をあわせる。それからベッドに移り身体を触り始めると、信子はすぐに吐息を漏らし始めた。

 信子は絵が好きである。特にいわさきちひろの絵が好きであった。次に信子と会ったのは8月に東京で泊りのデートをした時であるが、初日は練馬区にあるいわさきちひろの美術館に行った。東京駅で待ち合わせ、新宿のホテルに荷物を預けてから、西武新宿線でちひろ美術館の最寄り駅である上井草に向かう。15分程度の電車であったが、会話は途切れがちであった。博樹は緊張していた。結婚して以来、初めての泊りの不倫である。妻にばれたらどうなるだろうかと考えた。妻は決して博樹を許さず離婚を言い渡すだろうと思った。それは、妻と出会って以来30年、博樹が地道に築いてきた家庭、いや人生の崩壊を意味する。信子、この地味な女と不倫をすることは、これまで築いた家庭と人生をかけるほどの価値があるのだろうか? 答えはどう考えてもNoであった。一体何をしているのだろうと思った。これを最後にこの女とは別れるべきではないか、そんなことも思った。

 博樹はいわさきちひろの名前やその画風は知っていたが、ちひろが男性であるか女性であるかも知らなかった。いや、なぜかちひろは男性だと博樹は思っていた。ちひろ美術館で、博樹は初めてちひろが女性であることを知った。美術館を出て、博樹が興味があった石神井公園まで歩いて行った。相変わらず会話は少ないが、決して心地が悪いものではなかった。石神井公園の売店でジュースを買って二人で飲む。緊張感が和らいでいく気がした。その夜ホテルでは、何度も信子を求めた。5月の郡山と違って、信子を抱くことを楽しめた気がした。夜が明けて、ホテルを出て隣のベーカリーでパンを買って朝食とする。ホテルに帰るとまだ9時前であり、チェックアウトまで1時間以上あった。博樹がベッドで仰向けになっていると、信子が抱きついてきた。信子から求めてきたのは初めてである。忘れかけていた女性から寄り添ってくる感覚に博樹は酔った。昨日感じた信子との関係を絶たなければいけないという思いは、どこかに消え去っていた


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