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【大人 恋愛小説】

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出会い-5

 次に信子に会ったのは、11月の末に猪苗代であった。その日猪苗代は11月としては記録的な大雪であった。雪に閉ざされたホテルで信子とのんびりとした時間を過ごすことができた。妻にばれるかもしれないという緊張は相変わらずであったが、信子と2人でいることに対する緊張はほとんどなくなってた。心も体も信子に馴染んでいく気がした。

 今年になって、1月末に東京、3月初めに郡山、4月初めに東京と、これまでになく頻繁にデートを重ねた。郡山では、信子は初めて博樹にお土産を持ってきた。日本酒とつまみのアラレである。信子の心遣いが嬉しかった。郡山から東京に戻り、ホテルで寝る前にもらった日本酒を飲みながら、信子との時間を思い出した。

 信子が保育所に出勤するのは通常勤務の場合は8時15分である。信子はいつも8時前には保育所の駐車場に着く。そこでわずかな時間であるがSkypeで話をするのが、いつのころからか2人の日常となった。信子は車のバックミラーに映った顔写真を毎日送ってきた。写真の中の信子の表情はどことなく緊張していた。信子は職場で苦労しているようである。きっと出勤するのが憂鬱なのだろうと思った。博樹は信子に、もっと笑顔が見たいと伝えた。写真の中の信子は、少しずつであるが、笑顔を見せるようになった。

 博樹は6月に京都の大学で集中講義を行った。講義は月曜日からであったが、土曜日に信子と一緒に京都に入って1泊することにした。信子は金曜日のうちに実家のある名古屋に行っていたので、名古屋駅で同じ新幹線に乗って京都へ向かった。初日の土曜日は、博樹の希望で蹴上のインクラインを散歩してから、信子が好きな一澤信三郎帆布の店へ行った。テレビで紹介されたせいか品薄で、信子の欲しいカバンはなかったようだ。信子は随分残念がっていたが、河原町へ向かって歩いているうちに次第に気分も落ち着いてきたように見えた。夕食は先斗町の床を予約しておいた。川に面した一番良い席に案内してもらい、メニューに信子が飲める梅酒など甘いアルコールがあることに博樹は安心した。食事は美味しく、川面を渡る風は心地よく、信子も満足したようだ。相変わらず会話は弾むという感じではなかったが、もう会話が途切れてもそれを気にする必要はなく、黙っていても居心地の悪い感じはなかった。食事の後、ホテルまで20分ほど歩いたが、出会ってから初めて、信子は博樹の腕に自分の腕を絡めてきた。酔っていたのかもしれないが、これまでになく2人の気持ちが近くなった気がした。

 信子と最後に会ったのは8月の初めの東京である。この時は、日曜日の夜、浅草で一緒に泊った。初日の夕方、涼しくなってから一緒に浅草の仲見世を散歩した。浅草寺では、信子はおみくじを引いた。1回目は凶、2回目も凶。博樹は元々占いごとはあまり好きではなかったので気ノリはしなかったが、仕方なく自分でも引いてみたが凶。嫌な感じがしたが、信子はあきらめずに3回目を引いて、ようやく大吉が出た。博樹は心の底からほっとした。翌朝、月曜日の朝、一緒に地下鉄銀座線に乗る。信子は、お台場に遊びに行くという。博樹は仕事があったので、その夜泊まるホテルに荷物を預けるために神田で降りた。これが信子を見た最後となった。


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