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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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搭乗口のHUG-4


 二人が住んでいた部屋のドアノブには、都市ガスと電気そして水道の案内がクリアファイルのようなものに入ってぶら下がっている。もうここに、この街のどこにも、さおりさんとしのちゃんはいない。
 こうやってしのちゃんとの思い出を振り返りながら歩く道が、いつか懐かしい道になるんだろうか。はるかぜ公園もミラパークも、二人で登った獅子神山も三人で行ったアウトレットモールも、俺としのちゃんがこの街で「こいびと」としての時間を過ごしたという思い出に変わっていくんだろうか。その思い出を、しのちゃんと二人で、さおりさんを交えて三人で、宮古島でビールやメロンソーダを飲みながら笑顔で回想する日はいつになるんだろう。
 暮れなずむいつもの路地を入り、俺のアパートの鍵を開ける。ため息とパーカーを一緒にベッドに放り投げ、ニトリで買ったダイニングテーブルに腰掛ける。
 これ、しのちゃんと夕食や朝食を食べたりするために買ったんだよな。そう思った刹那、ぶわっ、と涙が溢れ、激しい嗚咽が口からこぼれ出た。我慢していたものが一気に溢れる。咳き込むように、吐き出すように呼吸が荒くなり、白い天板に涙がぽたぽたと落ちる。抑えても抑えても、喉から絞り出される嗚咽が止まらない。しのちゃん達を乗せた737-800が飛び立ってからまだたったの四時間程度、しのちゃんと一日二日会えないなんてよくあって、あの、はるかぜ公園でしのちゃんが泣いた日のあとは二週間くらい会えなくて、それも乗り越えてここまで来たのに、このたった四時間がこれから無限に続く空白の序章のような気がして、いやそんなことを考えたら縁起でもないから払拭したいのだけれど、悪いほうへ悪いほうへと考えが巡ってしまう。
 しのちゃん。会いたいよ。しのちゃんを抱きしめたいよ、いつでも会えるところにいたいよ。しのちゃん。
 ポケットの中でスマホが鳴った。涙で濡れた右手を引っ掛けながらポケットに突っ込んでスマホを取り出す。さおりさんからのメッセージの着信をバナーが告げている。かすかに震える指先で、緑色のアイコンをタップしてさおりさんとのトーク画面を開く。

「無事、宮古島に着きました!お兄ちゃん、柚希ちゃんに「大事な友人」がとっても感謝してましたって伝えてください!飛行中、ずっとしのの相手をしてくれて、しのが寂しがったり怖がったりしないように気をつかっていただいたの。柚希ちゃんの宮古島のおうち、うちの新居予定にしているお部屋の近所なんだって。妹さんが四月から四年生で、おなじ学校に通うことになるみたいだから、次のお休みのときにもし都合が合ったら妹さんも連れてお店に来てくれるって言ってくれた。しのにさっそくお友達ができて、とてもうれしいしありがたいです」

 トークには、宮古空港のロビーに展示されている巨大なシーサーの顔をこわごわと覗き込んでいるしのちゃんの画像が添えてあった。その、かわいらしい表情に、俺の涙と鼻水が止まり泣き笑いする。よかった。柚希ちゃん、ありがとう。「まかせてください」ってこういう意味だったんだ。
 さおりさんとしのちゃんはいったん新しいオーナーさんの家に数日身を寄せ、新居への引っ越しが完了したらさっそくさおりさんはお店に出て腕と鍋をふるい、しのちゃんは新小学3年生として転校先の小学校での新学期が始まる。そう、これは俺としのちゃんとの「別れ」なんかじゃなくて、いずれはそこに俺も加わることになる二人の「新生活」への序章、第一段階なんだ。めそめそ泣いている場合じゃねえ。
 洗面台で涙を洗い流す。とりあえず夕飯を食って、しのちゃんとさおりさんが疲れていなかったらLINEでゆっくり通話でもしよう。冷蔵庫を開ける。うーん、さおりさんが作ってくれた食事をしのちゃんが持ってくるときに使うタッパー、それを収めるためにいつも何も置かないようにしていたチルド室の上の空間は、まるで今の俺の胸の空洞のようだ。いや、あんまりセンチになるのはよそう。今日はしのちゃんとさおりさんの新しい未来が始まる大事な初日だぜ。
 冷凍庫に入っていた、たぶん二ヶ月くらい前にコンビニで買ったまま放置していた冷凍炒飯をチンする。もう当面、さおりさん手作りのおいしいご飯、しのちゃんの手がところどころ加わった幸福な食事はおあずけになる。また頑張って自炊しなきゃな。
 温めすぎて盛大に湯気を吹いている炒飯をふうふうと食っていると、ダイニングテーブルの上のスマホが音声通話の着信を告げた。LINE通話の着信画面は、さおりさんがプロフィールに設定しているまだだいぶ幼い頃の ―や、今だってまだ結構幼いんだけど― しのちゃんの笑顔だ。

「もしもし?」

「おにーぃちゃん!」

 しのちゃんの声だ。ああよかった。すんげえ元気な声。ゆうべHoneyWorksを熱唱したときとおなじような明るい声だ。

「しのちゃん?無事着いたね、お疲れさま。どう宮古島は?」

「あったかーい。海のにおいがするー」

 しのちゃんの背後からさおりさんの笑い声が聞こえる。

「ここよりずっと南だからね。飛行機、どうだった?」

「こわくなんかなかったもん」

 聞いてもいないのにそう言うってことは怖かったんだな。

「柚希お姉ちゃん、すっごいやさしいお姉ちゃんだった。制服もかわいい。あたし大きくなったら、お兄ちゃんの会社のキャビンあたんだんさんになるー」

 キャビンア・テ・ン・ダ・ン・トさん、でしょ。苦笑交じりのさおりさんのツッコミが聞こえた。

「柚希お姉ちゃんとお友達になっちゃった。こんどね、柚希お姉ちゃんがおやすみのときに、ママのお店に遊びに来てくれるんだって」

 柚希ちゃん、ありがとう。俺の大切な「友人」、いや、「こいびと」とその母親と親しくなってくれて。気持ちがちょっと落ち着いて、なんだか俺もこの先いろんなことがうまくいくような気がしてきた。単純かな。

「しのちゃん、あのさ…」


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