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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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搭乗口のHUG-5


「なあに?」

「あの、飛行機が離陸、飛んだとき…窓から俺、見えた?」

「んー、なんかね、速くてよくわからなかった」

 ま、まあ、そうだよな。センチな感傷に浸った自分に赤面する。けど、初めての飛行機、あんな高速で滑走してんだから怖かったはずなのに、窓の外を見て俺の姿を探そうとはしてくれたんだ。
 長旅の興奮やシーサーを始めとした宮古島の初めて見る光景にすっかりテンションが上ったしのちゃんのマシンガントークは十五分続いた。食いかけの炒飯がどんどん冷めて脂っぽくなっていくけれど、なにまたチンすりゃいい。しのちゃんの明るい声、息遣い、俺が大好きなしのちゃんの息臭が蘇りそうな耳元のリップノイズ。こんなに心地良いサウンドは世界にふたつとない。

「だからね、みやこじまって、すっごくきれいでおもしろそうなところなんだよ。お兄ちゃんも早くおいでよ」

「うん、絶対に行くよ。しのちゃんを待たせたりしない。俺、宮古島でしのちゃんとおんなじお家で暮らしたいな」

「うん!あたしもー!。ね、ママ、新しいおうち、お兄ちゃんもいっしょに住むんだよねー」

 たぶん苦笑いしながらしのちゃんからスマホをバトンタッチされたさおりさんが、「もしもし?替わりました」とやっぱり含み苦笑いしながら言った。

「こんな感じで、しのは上機嫌なの。新生活の滑り出しは上々だと思うわ。このペースで学校が始まって、柚希ちゃんの妹さんやクラスメートとも仲良くなれたら、とりあえず大丈夫だと思う。でも、やっぱりお兄ちゃんがいないと、ね」

「はい……実は俺、さっきちょっと、泣いちゃって」

 あらら。さおりさんがおどけたような声をあげた。

「しのと離れて、寂しくなっちゃった?」

「は、はい……なんか、情けないんですけど」

「ううん、そんなことないよ。それにね、母親としては嬉しい気もする。二人が寂しい思いをしているのを見ているのは辛かったけど、二人はこんなに互いを想っているんだ、しのはお兄ちゃんにすっごく愛されているんだ、ってことも改めてわかった。私、はるかぜ公園でお兄ちゃんと最初に会ったとき、あのときはお兄ちゃんが辛くなるようなこと言っちゃったんだけど……」

「あ、いいえ……」

「でも、お兄ちゃんを信じてよかった。二人は本物の『こいびと』同士だね」

 こいびとじゃないもん。もうすぐ「ふうふ」になるんだもーん。しのちゃんの照れのかけらもない無邪気な声が聞こえた。さおりさんの爆笑に合わせて、俺はたぶん今日初めて声を出して笑った。



 安心することができたからか、それとも夜でももうさほど寒くなくなったからか、アルコールの力を借りたりすることなく熟睡することができた。
 いや、これはたぶん「お守り」の効果だな。PCデスクの横の壁から枕元のヘッドボードに移動させた巾着袋、しのちゃんの小児用パンツを包んだ巾着袋が俺に安眠効果をもたらせてくれたに違いない。小さな子供がぬいぐるみを、それこそしのちゃんがクリスマスイブにクレーンゲームでゲットしたちいかわのぬいぐるみを抱きしめて眠っているように、俺は「こいびと」のパンツに見守られながら健やかな眠りについていた。うん、十分に「へんたい」だな。
 フル充電されたワイヤレスイヤホンのドライバユニットに今朝は大瀧詠一の古いアルバムを送り込み、うっかりすると電車の中で眠ってしまいそうなウララカな陽気の中を出勤する。なんだろうこの穏やかで満ち足りた気持ち。しのちゃんと「こいびと」になった次の日の出勤のときもこんな気持ちだったっけな。
 琴美はシフト休みだった。今日から復帰した麻衣ちゃんが持ってきてくれた夢の国のおみやげ、ネズミとアヒルのイラストがプリントされたクッキーをいただく。えー、こんなクッキーでそんな喜んでもらえるとは思いませんでした。麻衣ちゃんの嬉しそうな笑顔の、唾液で濡れた歯がまぶしい。いや、単に浮かれているだけなんだけど。でもまあさすが世界の夢の国、一見ありきたりな物のように見えるクッキーにもふんだんにバターが入っていて美味いわこれ。
 宮古島からの550便は予定どおりの時刻、On-timeで到着した。170人乗り737-800にPAXが28人、折返しの551便には今日は16人しかいない。
 機がスポットインしてからall PAXが降機するまでわずか三分。ゴミもほとんど放置されていない機内に入ると、今日は客席後部を担当していた柚希ちゃんが最後部のギャレイの前で、にこ、と笑顔で迎えてくれた。

「柚希ちゃん、あの……昨日はありがとう。友人がお世話になりました。柚希ちゃんにすごく良くしてもらったって、二人とも感謝してた」

「いえいえそんな。しのちゃん、すっごくかわいい子ですね」

 すっごく、と言いながら小首をかたむける柚希ちゃんこそかわいいです。ああ、そんな軽口がすらすら叩けたら大学生活とかもうちょっと色彩豊かだったかもしれないし中学以降26歳まで彼女なしなんて人生じゃなかったかもしれない。いや、だからこそしのちゃんと出会って「こいびと」になれたんだからそれでよかったんだけどな。

「妹さんと今度会えること、二人とも楽しみにしてるみたいです」

「はい、真奈っていって、こんど小4になるんですけどしのちゃんと同じ小学校です。学年はひとつ違うけど、通学路が近いから一緒に学校行けると思います。真奈にしのちゃんのこと話したら、すぐに会いたい、って。あ、ちょっと待っててください」

 そう言っていったんギャレイの中に入った柚希ちゃんは、制服とおそろいの色の支給品ショルダーバックからスマホを取り出しながら戻ってきた。俺の肩越しに客室に他のクルーがいないことを確認して ―とはいえパーサーさんもコックピットクルーもあんまり口うるさい人はいないんだけど― スマホの画面を何度かタップした。

「これ、妹の真奈です」


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