藁の匂いに惹かれて第2話-5
―――――――ドルンッ・・・ドッドッドッ・・・・
「・・・・・ここだ」
「ここは・・・・・」
2人を乗せたバイクが止まった時、
ウィンセントが顔を向ける方向にティファも思わず視線を向けた。
2人が立つのは道路脇の断崖絶壁。
その先に広がるのは、夕日によって赤く染まる青空。
遮るものとてない完全な地平線。
緑豊かな雄大なる緑色の密林と、
それを分断するかのように流れる大小幾つかの河川。
密林の至るところに顔を出している岩の隆起物。
鳥の群れが沈もうとする夕日に向かって独特の奇声を発しつつ、その翼を広げ風に乗っている。
「凄い・・・・・」
視界一杯を支配する雄大なる光景に、 ティファは目を見開き絶句していた。
灰色の街ミッドガルでは到底見ることのできないような情景。
崩壊と混沌の爪痕がくっきりと世界に影を遺す中、
このように雄大で色鮮やかな光景が残っていることだけでも、正に奇跡といえよう。
複数の色彩がティファの視界と思考に鮮やかな色を与えてくれる。
久しぶりに自分の中が彩られ、
自然と気持ちの中に華やぎと明るさが戻ってきたような心持ちである。
ちらりと横に立つウィンセントの顔を盗み見た。
驚いたことにウィンセントの方が彼女の方に先に視線を向けていたのだった。
「・・・そ、そんなに見ないでよ」
「・・・済まない。だがやはりティファは今の表情の方がずっといい。
沈んだティファよりも明るいティファの方がいいからな」
それだけ言ってしまうと、ウィンセントは無表情を崩さぬまま視線をティファから地平線の方向に移した。
たったそれだけの短い言葉だったが、
ティファは言葉の中に秘められたウィンセントの心遣いに胸の中で感謝していた。
(ありがとう、ウィンセント・・・・)
知らず知らずのうちに、ウィンセントの横顔を見つめるティファの口許には自然と微笑みが浮かんでいた―――――