藁の匂いに惹かれて第2話-1
藁の匂いに惹かれて 笑い男
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―――――あの雨の日から、
もうすぐ1か月が経とうとしている。
――――――彼女の中で、あの“小屋の中の出来事"は忘れたくても忘れられないものとなっていた。
――――――――彼女にとってそれくらい濃密な経験だった。
――――――あの時からずっと、彼女の前に彼は姿を見せてはいない。
――――――――カラ、カラァァン・・・・
「ごちそう様、美味しかったよ」
満足げに腹を叩きながら部屋を出ていく中年の客の背中にティファとマリンの声が響く。
「ありがとう、また来てね」
「ありがとうございました!!」
出ていく客の背中に明るい声をかけるティファとマリン。
昼前から今に至るまでの客の喧騒も漸く落ち着き、先程の客が出ていったことで店内は静寂に包まれた。
いつもの如くだが、
クラウドは運び屋稼業の為不在。
デンゼルはバレットの仕事の手伝いの為に昼過ぎまで帰ってこない。
「・・・さて、と。やっと一段落ってところかな。
少し遅くなっちゃったけど、マリンも一息ついてね。お疲れ様」
「は〜〜〜〜い」
元気良く返事するマリンがうーんと大きく背伸びするのを見ながら、
ティファは密かにため息をついた。
身体の中に残る微妙なしこりのせいか、最近気分が今一つ乗らない。
別に働きすぎで疲労しているというわけではない。
しかし気分が乗らないまま溜め息の数ばかりが増えている。
(何だか、なあ・・・これが欲求不満っていうのかな)
彼女自身薄々気づいてはいた。その原因さえも。
(・・・あの時のことが)
頭の中でそう考えると、 彼女の脳裏に浮かぶのは、恋人クラウドのものではなく、全く別の男の顔――――――
(ウィンセント・・・・)
鋭敏なマリンに気づかれないように心の中で彼の名を呼ぶ。
あの日以来、ウィンセントとは一度も顔を合わせていない。
(顔くらい見せてくれても・・・いいじゃない)
心の中にぽっかりと穴のように残る空虚な気持ちをもてあまし、
ティファは思わずウィンセントに毒づきたくなった。
(・・・お陰で夜も眠れないし、それに・・・・)
クラウドに抱かれている時目の前のクラウドの顔が突如ウィンセントのものに変わってしまったこともある。
思わずウィンセント、と声を出しかけたこともあったくらいなのだ。
また1人でベットに入っている時、
気づけば下腹部や乳房の先が熱を帯びてくることもある。
火照りを冷まそうと無意識に下腹部の茂みに指を差し入れ、乳首を捏ね回したものだった。
彼女にとっては、ある意味ウィンセントによって翻弄され悩まされた1ヵ月でもあったのだ。