藁の匂いに惹かれて第1話-5
突然強くなった藁の香りを吸い込むと、なぜかティファの思考は乱れ怪しい気分になってくる。
そう、彼女の中に潜む本能を刺激されたような感覚に陥るのだ。
勿論彼女にとっては初めての経験である。
傍らのウィンセントや周囲の状況に意識が集中しているせいか、ゴクリと唾を飲み込む音までティファの中ではよく響く。
そして真横にいるウィンセントの視線。
顔を合わせず、されど感覚的にその熱視線を肌に実感してしまい、ティファの心臓の鼓動は早くなる一方だった。
(何やってるのよ・・・・・私ったら、変に意識して・・・二人っきりっていっても、ウィンセントとは別に・・・・・)
まさしく室内の微妙な静寂が、彼女の思考を乱すその最大の理由ともいえるのだが。
そんな“微妙な"静寂を先に破ってきたのはウィンセントの方だった。
「・・・まだ、言っていなかったな・・・ありがとうと・・・・」
予想以上に至近に感じるウィンセントの低い声色と温かい息づかいに、ティファの身体は思わずブルッと軽い身震いを起こす。
前から思っていたことだが、彼の低い声は時と場合によって女性を惑わす恐るべき“武器"になる。今がまさにその時なのだが。
そしてティファの反応を室内の寒さのせいと誤解したのか、或いは別の意図を持ってかは分からないが、ウィンセントが腰の位置をずらしてティファの方ににじり寄ってくる。
確かに彼女の黒いチャック式のタンクトップという格好では、そう誤解されても仕方はない。
もっともティファ自身は顔を背けたままだ。
だがウィンセントの接近に対して身を離すこともしていなかった。
―――――――ザアァァァ・・・・
窓の外から聞こえてくる雨の音がいつしか大きなものになっている。余程の本降りになっているのだろう。