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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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閨房の性臭-5


 駅前での無邪気な笑顔と裏腹な、ちょっと固い表情になったさおりさんに、血中のアセドアルデヒドがその分解を一時停止する。

「例の、宮古島のお店の話なんだけど……私、受けようかな、と思ってるの」

 もしかして、とは感じたけど、やっぱりこの話か。

「いろいろ考えて、オーナーにも相談して……決して悪い話ではないのは確かなの。そりゃもちろん、初めての土地だから苦労もあるのはわかっている。でも、あちらのオーナーさんの人柄とか、お店の経営状態とか、チャレンジするには恵まれた環境なんじゃないかなとも思うのね。自分の資格や技術も活かせそうだし……それに、しの、やっぱりこっちの学校に馴染めなくて、ううん学校が悪いとか同級生が悪いとかじゃなくってね、要は相性なんだけど、そういう意味でも環境を変えたいな、とも考えてて」

 冬物語を一口飲んで、また小さなため息をつく。

「宮古島の雰囲気、なんていうのかな南国特有の開放感と懐の広さみたいなものがあった。もちろん宮古島の文化や風習をちゃんと尊重するけど、その上であそこの人たちの胸に甘えてみようかな、なんて思ったりね」

 さおりさんは、テーブルの上に置いていたスマートフォンをタップしてメッセンジャーアプリを開いた。

「ほらこれ、向こうのオーナーさんとのやりとり。お店の決算状況とか宮古島の飲食事情とか、すごく細かいことをどんどん送ってくれているのね。で、ところどころお客さんや、そのお子さんの動画とかが混じってて……『みんなが歓迎してるよ、ゆっくり考えて、その気になったらいつでも宮古にめんそーれ(おいで)』って」

 暖かそうな南国の陽射しを受けて白く光る平屋の店舗をバックに、初老のオーナーとお客さんらしき家族連れが手を振っている動画が再生される。かりゆしを着た若い男性に抱っこされた、しのちゃんくらいの年齢の女の子が方言でなにか言っている。

「このご夫婦ね、仙台から移住してきてて、お子さんは宮古の学校にすっかり馴染んじゃってパパとママ以外の人とは宮古の方言でしかしゃべらないんだって。もし私達も移住したら、しのもそうなっちゃうのかな。それくらい溶け込めたらいいんだけど」

 さおりさんはスマートフォンの画面を閉じ、ゆっくりと俺の顔を見た。

「相談は、言うまでもないけどお兄ちゃんとしののことなの」

「……はい」

「私の本音は、しのとお兄ちゃんを離したくないの。しのはお兄ちゃんのことが心から大好きで慕っている。大切な『こいびと』だって、しょっちゅう言ってる」

「それは、俺も同じです」

 さおりさんはやさしく微笑んで、うん、とうなずいた。

「そうだよね。お兄ちゃんには本当に感謝してる。しのを大事にしてくれて、見守ってくれて、愛してくれて。今日もいろいろ、愛し合ったんでしょ」

 え、さおりさんこの真面目な話の中にそれをぶっこんでくるのはずるい、赤面を隠せないじゃないですか。

「ふふ、お兄ちゃんってほんとに正直だ。や、いいんだけどね『こいびと』だから。私、二人の『こいびと』関係を壊したくはない。けど……」

「……わかります。さおりさんにとっても、チャンスですもんね」

「うん……正直、結論が出せないの。私一人の問題じゃないし。お兄ちゃんの気持ち、しのの気持ちも大事だから」

「いつまでに結論、とかあるんですか?」

「向こうのオーナーさんは新年度を目処に、って言ってる。決算が六月だから、引き継ぎも含めてタイミングがいいからって。しのも、新学期に合わせての転校がいいのは確か」

「……遠距離恋愛、って、なんか実感わかないです」

「私も。しのにとっては、お兄ちゃんがいつでもそばにいてくれることが重要なんだと思う。大人同士の恋愛じゃないから、事情とか状況とかに対処して継続する、っていうのは小学生には難しいんじゃないかな、たぶん」

「そう、ですね」

「お兄ちゃんどう思う?あ、まあ、いまここですぐ意見が出なくても」

「や、俺も、しのちゃんとは離れたくないです。俺にとっていちばん大切な人ですから……さおりさんだって、これ、人生の転機ですよね」

「うん、正直、魅力は感じてる。けど……」

「どうすればいいか考えます。宮古島へ異動できないか、とか」

 支店長との個別面談が近い。

「もしそれが通ったら理想的、だよね。でも、会社組織だから、お兄ちゃんの希望どおりになるかどうか。それ以前に、お兄ちゃんが宮古島に本当は抵抗がないかどうか、も大事だよ」

「ないです抵抗なんて。宮古島の人たち、いい人が多いんで俺も好きですよ」

 うちの便で宮古島やその周辺の島からやってくるお客さんたちは、大らかで朗らかで、いい意味で力が抜けていて、一緒にいてどこか心が休まる。柚希ちゃんみたいに人懐っこくて距離感がいささか近すぎる人も多いけれど、それが不快じゃない。

「ほんと?しのと離れたくないからって無理してない?」

「本当です、宮古の食べ物はうまいし」

 やっと冗談が出た。ふふ、と漏れるさおりさんの吐息がテーブルの上に乗せた俺の手のひらに柔らかくかかる。

「異動って、でも簡単にはできないでしょ」

「来週個別面談があるんです。そこで支店長にこういう希望があるんだって話してみます。下地島に新規航路就航させるから、人員拡大しなきゃいけないんでまったく却下されることもないと思うんですよね」

「それが叶ったらいいね……そしたらさ、宮古で、三人で住もうか」

 さおりさんがいたずらっぽく笑う。

「え?」

「私とお兄ちゃんが夫婦、っていう体で」

「たぶんしのちゃんに殺されますよ、今日も言ってたんです『こいびと』同士が結婚したら次は『ふうふ』だね、って」

 さおりさんの明るい笑い声がダイニングに響いた。


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