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ノラ猫 
【ファンタジー 官能小説】

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ノラ猫-10

〇おれが孤児院から消えて、三年ほどがたちました。その間、貨物列車に忍び込んで移動しては、離れた町の隅をドブネズミのように逃げ回って、その日の糧をかすめ取っていました。
空き缶拾いなんかもしましたが、その元締めからもらえる金は、パン一個分ほどにしかなりません。
その日はしばらく食べ物にありつけずにいました。「おめえがトロいからだよ」 その通り、その元締めはみんなから集めたものをまとめて売って、結構いい暮らしをしていました。
「もっとたくさん持ってこい。そうしたらいい値で買ってやらあ」けり出されました。
無性に腹が立ちます。孤児院を逃げ出したのに、町にもシュウのような屑はどこにでもいました。そして俺のようなやつもたくさんいました。

次の日、おれは体中痛くて起きられませんでした。これが病気で、このまま倒れているようなら後は死ぬだけです。
発疹が出ているのかと思ったら、それはあざでした。
≪知らない間に襲撃されて、頭でも打ったんだろうか≫ 思い出せません。
ちょっとした物の取り合いで殴り合うなんてことは、よくありました。おかげでおれも昔のような貧弱な体ではありません。
裏町に、仲間なんかはいませんが、たまに、相手の邪魔もせず、時には助け合うこともある者もできます。その一人がそっと寄ってきました。
「逃げろ。元締めからおまえの死体を見せろと命令が出てる」
「どうして」
「おまえ、やつを病院送りにしたようだな」肩をたたいてくれます。 「スッとしたぜ。おまえがどうやったか知らんが、賞金が出る前に逃げろ。ま、やつが金を出すとは思えねえが、取り入ろうとするやつはいるだろうよ」
おれは逃げました。その男だって、金が絡めば殺しくらい喜んでするやつでした。このあたりで得られるには最大の親切でした。 
貨物車に忍び込み、町を抜け出しました。元締めの力もそれ以上には及びません。所詮は町のチンピラです。
知らない町の公園のベンチに座り込んで、あたりを見回しました。まずは様子をうかがうことからです。
それぞれの町にはそれぞれの元締めがいて、ルールがあります。それを無視していると長生きはできません。
孤児院のころはまだ平和とも言えた。と、懐かしく思います。
またシュウのことが思い出されました。イライラします。
もうとっくに卒業しているはずです。≪どこで何をしてるんだろう≫
そのまま寝入ってしまいました。怪我をしていた上に移動したことで思いのほか体力を使ってしまったようです。

■オレは目を覚ますと、体中の筋肉をもみほぐした。体は悲鳴を上げるが、たいして気にはしない。
ただ、地の底から染み出してくる地震のように、いら立ちがトゲとなってオレを揺する。
≪出て来たついでだ、孤児院に顔を出してやるか≫ そこはオレの苦悩の始まりの場所だった。
元締めを叩きのめして巻き上げた金を隠しポケットから出すと、列車に乗ろうとした。ところが駅員が出てきてオレを追い払った。
お前のようなのを客車に乗せられないというのだ。 「乗客に盗みか強盗でもする気だろう。そうでなければ罪を犯して逃走でもしているんだろう。そんな協力はできない」
なぐりたおしてやった。おかげでさらにお尋ね者となった。さすがにこれ以上騒ぎを起こすわけにもいかないので、その場を離れた。
線路脇に隠れて、列車がやってきたところで貨物車に忍び込む。
近くの駅で降りて、昔、流された水路をたどって、陰気な孤児院についたのはもう夕方だった。
『農作業実習』と称される強制労働を終えて帰ってくる一人を捕まえて、院のことを聞く。
院長はまだいた。夜には帰ってくるだろうということだった。
≪せめてあいさつでもして、シュウの居所でも聞くか≫ それに、ここまで来ておいて、院長だけでも叩きのめして帰らないのは、もったいない。 
「ありがとよ」ちび助に、礼のビンタをくれてやると離してやった。
オレのことなんか覚えているはずがない。ねじけた体もコートで隠しているし、とっくに溺れて死んだ過去の人間なのだ。
門の近くで待っていたが、すぐにイライラしてきた。オレは待つのが大嫌いだ。


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