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銀彩(ぎんだみ)
【SM 官能小説】

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銀彩(ぎんだみ)-7

彼に恋人がいることが週刊誌に掲載されたときわたしは烈しく激怒した。わたしだけがそのことを知らなかった。そして、わたしではない女が彼の恋人であることがゆるせなかった。彼はすでにその女と婚約をしていた。わたしは彼を責めた。彼を愛しすぎたことで彼を憎みはじめていた。そのときのわたしには彼しかいなかった。彼の性器を誰にも渡したくなかった。

わたしは、彼のペニスが《わたし自身にとって、不必要な現実を纏った、不完全なもの》だと思った。だからわたしは、彼を自分のものとして飼い、彼のペニスを銀色に熟成させたかった。なぜかわたしは、彼の性器がペニスでない、どこかほかの肉体の一部であるような錯覚に陥っていた。そしてそのペニスは正直に彼の嘘をあらわにしているような気がした。それでもわたしはペニスの先端から漏れ出す密やかな吐息に酔い、溺れた。それは空洞になったペニスの奥から聞こえるわたしへ愛の裏切りに聞こえた。
わたしは悪意と、冷淡さと、侮蔑をもって貞操帯を手にし、最後のセックスを終えて彼が眠りについたとき、萎えきった彼のものに屈辱を与えた。そしてあのときの義父と同じように彼のものを貞操帯で封じ、鍵をかけた。
彼は目が覚めると自分のものがどういう状態になっているか気がついた。 
いったい、どういうことなんだ。彼は頬を強ばらせて叫んだ。わたしは冷ややかに言った。あなたがわたしを必要としなくなった記念にと思って付けてあげたわ。とてもかわいいじゃないの、あなたによく似合っているわ。
彼の顔が紅潮し、微かに震えていた。彼はもがくように貞操帯を指でいじくり解こうとしたが、彼のペニスを密閉した金属の殻はけっして外すことはできないことに彼は気がついた。
鍵は、鍵はいったいどこにあるんだ。彼はベッドに押しつけたわたしの顔を平手で打ち、首を両手で絞めようとした。
あら、わたしを殺す気かしら。だったらあなたが鍵を手に入れることは永遠にできないわね。鍵のある場所はわたしだけが知っているの。それを外すためには、あなたの立派なものを切り落とすしかないわ。
彼の顔から血の気が失せていくのがわかった。そして、裸で床にうずくまる彼を部屋に置き去りにしてその場を去ったわたしは、二度と彼と会うことはなかった。


密林に囲まれた湖は黄昏の太陽に照らされ、オレンジ色に染まっている。その光をアルジョンテは飴色の肌に充分過ぎるほど吸い込み、湖で優雅に泳いでいる。
邸(やしき)のテラスは湖に突き出し、目の前には光を含んだ水面がとても深い碧色をのぞかせている。彼がゆっくりと水面をかき分けるごとに身体の肌がピンと張りつめ、水に濡れた腕や腹部、そして太腿から足先まで筋肉が伸縮を繰り返され、優美な輪郭を描く。胸肌と張りのある形のいいお尻が透明な水膜で包まれながら蠢き、微かな風をなびかせる。しなやかに伸びた彼の身体の首輪と貞操帯が水面からのぞき、水に映える宝石のようにキラキラと輝き、わたしの欲情を掻き立て疼かせる。

わたしはテラスで椅子に腰を下ろし、ワインを口にしながら彼が泳ぐ姿をじっと見つめていた。青い目の男と別れたときから、わたしは男と体を交えて悦びを得る《感情》を忘れてしまった。彼のペニスを失ったときからわたしの中には嫉妬だけが残り続けた。嫉妬は心を縛り、わたしの肉体を喪失させた。いや、もしかしたら《嫉妬で苦しめられること》以上に、彼のペニスに対して喪失感をいだいていたのかもしれない。
彼と別れてからわたしはいろいろな男に抱かれた。わたしの肉体を求める男の視線にわたしは敏感だった。わたしの中には魔物がいたのかもしれない。愛し合うことなく、わたしは空洞に男の性器を受け入れた。ただ男の性器で空洞を埋められても、突き抜かれても快楽はそこにはなかった。空洞は、空洞のままであり、流し込まれた男の体温を感じない精液だけが子宮の奥をあてもなく徘徊していた。そして何よりも性器を誇る男が美しいとは思わなくなった。
軽薄な愛を囁き、堅くなりながら伸びあがる肉の棒、皮膚の陰翳、えらの起状と軋み……そのすべてにおいて、わたしは男が性器に露わにする欲情に対して不感になり、不快に思った。それよりもわたしに去勢されたいと愛おしく性器を差し出す男の方がどれほど美しいと思ったことか。

わたしは貞操帯で封印したアルジョンテのペニスについて思いをめぐらせた。貞操帯の細かい小さな穴がこの地の乾いた空気を吸い込み、彼のペニスは燻製にされる甘美な肉のように真珠色に輝きを増し、少しずつ熟成していく。それは彼のペニスだけでなく心と肉体に漲る純潔を熟成させる。肉体はやがてつやつやと光はじめる。顔や身体の表情が変幻し、肌艶は色あいを濃くしていく。それは彼の《わたしに対する愛の熟成》なのだと独りよがりにわたしは思っている。

ふと、あのとき別れた男に吐いた言葉を今でも思い出す。


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