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銀彩(ぎんだみ)
【SM 官能小説】

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銀彩(ぎんだみ)-8

――― あなたはすでにわたしのものなの。あの女がどれほどあなたの想像力を掻きたてられるっていうの。わたし以外にあなたは自分の中に女を描くことはできないわ。だから言ったでしょう、いったいあなたはあの女の何を欲しがっているの。どうせあなたって、あの女を抱いたときの彼女の顔も、声も、息づかいも、肉体も、そしてあなた自身の射精も、何ひとつ覚えていないでしょう。あなたがわたしのものになってから、あなたはずっとそうだったわ。あの女に対するあなたの愛がどれほど脆いものか自分でもわかっているはずだわ。いいえ、あなたはあの女に対して愛の幻覚をいだいているにすぎないのよ。あなたってほんとうにわたしから離れられるの。笑ってしまうわ、あなたはただの愛の夢想家なのよ。自慰的にアポリネールのような詩を語り、シャガールの絵のように奥深い青色で愛を描き、モーツアルトのような研ぎ澄まされた旋律を奏でる。それはすべてわたしに捧げられるあなたのかけがえのない想像なのよ。あなたはそのことがわかっているはずだわ。だからあなたはあの女を永遠に愛することはできないのよ………。


あれから七年、わたしは気がついていた。彼のすべての記憶が希薄であることについて。彼の艶やかな髪も、濃い眉も、整った鼻も、薄い唇も。そしてわたしを抱いたときの彼の肉体の感触も、声も、言葉も、息づかいも、交わった感覚も、射精に含まれた体温も、わたしは何ひとつ彼のことを覚えていない。ただ、彼のペニスの幻影だけが銀色に染まり、わたしの中を漂い続けていた。
銀色に彩られた彼の夢を今でも見ることがある。銀色は彼を岩に刑架するために打ちこまれた鉄環の色であり、彼の首輪の色であり、肉体の中心にそそり立つ、漲(みなぎ)る彼のペニスを縛った鎖の色だった。わたしは夢の中をさまよい、銀色に縛(いまし)められた彼の肉体を喘ぐように求めていた。
大理石のような肌をした裸体は、香り高い音楽を奏で、苦痛を洩らす声も肉も銀色に煌めく。わたしは今にも彼のペニスを切り取らんばかりにナイフを彼に突きつけていた。血の気を失い蒼白く変幻していくペニス。でも彼の顔は苦痛ではなく、ペニスを切り取られることにまるで至福の悦びを感じているように笑みを浮かべている。そしてナイフが彼のペニスを削ぎ落とそうとした瞬間、夢の中のわたしの軀(からだ)は研ぎ澄まされた感覚で充たされた。そして微かな肉襞の痙攣は、やがて烈しい弛緩と収斂(しゅうれん)を倒錯的に引き起こし、浮遊し、肉奥の子宮が砕けたかのように高みに達した。その瞬間、わたしは深い眠りから目を覚ました。


 アルジョンテはふわりとした絨毯の上でわたしが弾くピアノを聞きながら薄い眠りについている。今夜はいつもと違って気分がとてもいいので彼を檻から出してあげている。彼は裸の身体を横たえ、とても穏やかで素直な顔をしている。首輪の鎖は檻の鉄格子に繋いでいるから、いずれ彼は目を覚まし、檻の中で眠ることになるだろう。わたしはそう彼をしつけていた。窓の外の風の音が気になったわたしはピアノを弾くことをやめる。風以外には何も聞こえなかった。

今日の朝、いつものように屋敷のまわりの林の中をアルジョンテといっしょに散歩した。鎖の胴輪を全裸の胴体に巻きつけ、四つん這いになって歩く彼の首輪のチェーンのリードを引くことは、わたしにとっては心地よい癒しを与えた。
密林から吹いてくる風が珍しく乾いていて、甘い樹液の濃い匂いがした。それはアルジョンテからわたしが吸い上げた精液の匂いに似ていた。朝から野鳥の啼く声は途切れることなく、どこまでも続く密林は気の遠くなりそうな眩しい光に充ち溢れようとしていた。
彼はとても素直にわたしに従う。四つん這いになって首輪の鎖を引かれることに悦びを感じているように。そして、ときどきわたしを見上げる。あまりに無垢で罪のない瞳で見つめられるとわたしはくすぐったくなる。
わたしは腰を低くするとアルジョンテの頬を撫でながら言った。あなたは、わたしをとても安心させるわ、そう、わたしの空腹を充たしてくれるような欲望を感じさせるの。あなたがわたしの飼い犬となってわたしの足元でこうして跪いているだけで。もし、あなたがわたしから逃げてしまったら、わたしは狂ってしまうかもしれない。でも、あなたはわたしから離れることはできないわ。あなたはわたしとこうしていっしょにいることで、このうえない純潔をいだき続けることができるのだから。


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