先輩との別離-5
真由美は両手で顔を覆い、身体を震わせて涙を流した。
(ーー彼にこんなことさせてしまうなんて…そうしたのは、あたしだ)
「ごめ、…佐田くん…ごめんなさい…」
「何で謝るんですか。無理やりしたのは俺ですよ…」
ーーそのときだった。
「佐田くん…?先輩…?」
寝室のドアが開く。
パッと部屋の明かりが点いた。
金治はドアの入口に立つ朝美を見ても、膝立ちになったまま、動きもしない。
それに対して真由美は身体をよじるようにして、自らの裸体を隠した。
「嫌がる声が…したから…。佐田くん、先輩のこと…?」
「違う…違うの…」
真由美は身体を起こして、朝美にそう言う。
だが、頬についた涙の筋を見て、これが合意の上の出来事だと誰が思うだろう。
戸惑う朝美に、金治は言い放つ。
「違わない。寝ちゃった田中さんの体にかけるもの持ってこようとして寝室に入った先輩を、無理やり押し倒したんだよ。
それに初めてじゃないよ。俺、会社でも先輩に強要してたんだ。見られた以上は言い訳しない」
「か…会社…とか、何…言ってんの…?そんなこと、先輩にしてたの」
「朝美ちゃん、佐田くんを責めないで、お願い。違うの…」
「先輩、違わないでしょう。今日だって、怯えてたと思うよ。俺に会いたくなくて」
金治はフッと自嘲気味に笑うと、自らの衣服を整える。
呆然と立ち尽くす朝美の横を通り過ぎて、金治は真由美の家を出ていった。
真由美は泣きじゃくりながら、今日のことは忘れて欲しいと朝美に伝えた。
朝美は、何故こんなにも金治を庇うのかと不思議に思っているようだった。