(最終話)解かれることのない先輩との関係-3
信頼を置いた彼女に伝えられたのは衝撃の事実だった。
ある日新橋で飲もうと誘われ、連れていかれた先はーーーゲイバーだったのだ。
「真由になら伝えられると思った」…と。
時任先輩の恋心は一瞬で打ち砕かれたのだった。
「あたしは夫のこと…下心で見てたのにね。彼は純粋にあたしのことを信頼してくれたから…会社の中で繋がりがあって、重要な立場にいるのに、あたしにカミングアウトをしたわけ」
そこから何度か食事をし、さらに繋がりを深めた後に時任先輩は結婚を申し出た。
「ただあなたが世間的に結婚しているという状態を作ってあげたい」のだと…
そこからはトントン拍子で話が進んでいったらしい。
「バカみたいでしょ。ただ傍にいたいだけとかさ」
「いや、俺は…少しはわかりますよ。自分が先輩の特別な存在なのだという、優越感…感じないわけじゃなかったし」
「ふふ、わかってくれる?誰もが羨む役員が、実はゲイで、そのことを知ってるのはあたしだけだって、そういう優越感…確かにあったなぁ」
「でも、どこかで、見えない男に嫉妬して」
俺のその言葉に、ふふっ、と二人で示し合わせたように笑う。
「本当、お互い様ね。ーーでも、あたしは手も繋げないのよ?わかってくれるわけ?あたしと散々エッチしたのに…」
先輩は俺の頬にそっと指を這わせると、ゆっくり唇にキスをした。
「あたし…小菅くんがあなたの気持ちを無理やり暴いて…その勢いで、レイプされた時ーーー変だよね、嫌だったけど、嬉しかった。
そういうの、夫はないんだもん。恋愛的に好きっていうの、ないわけだから。自分のことを好きだって言ってくれる男に抱かれるのって、精神的に気持ちよかった。だから、あなたに対しても優越感、感じてたの。
そんなあなたを操作できる…。
決して子供欲しさだけに無理やり体を重ねてたわけじゃないから」
先輩は、セックスが出来ないならと体外受精で夫との子供を望んだらしい。
だが、先輩の夫は、検査してみると子供ができる体ではなかった。
そんなときだったのだ。秀次が俺の気持ちを暴いたのはーーーーー
先輩との淫らな関係から解き放たれたかったのに。
俺の行動故に、結果的に、むしろ強く先輩との関係を結びつけることになってしまった。
先輩のお腹にいる子供は、俺の子供なのだ。
子供が生き続ける限り、俺は先輩との結びつきを否応なしに認めねばならないのだ。
解かれることのない先輩との関係ーー俺は、きっと、あなたから一生解き放たれることはないのだろう。