片思いを暴かれて-1
「ーー今日は来てくれてありがとう」
二月の、ある土曜日だった。
ドアを開けた女性ーー時任真由美(ときとうまゆみ)は、結婚祝いを兼ねて、引越し祝いをしにやってたきた三人の後輩たちに感謝を述べる。
「綺麗なマンションっすねー!」
「ふふ、小菅くん、ありがとう。夫がもともと持ってた部屋なんだけど、関西の方に出向になっちゃって。結局一人暮らしなの」
「えっ、寂しいじゃないすか!」
そう言いながら、小菅秀次(こすげしゅうじ)は四人のうち、真っ先に部屋に上がろうとする。
「おめでとうございます」
秀次の後ろから控えめにやってきて、ぺこり、と軽く頭を下げたのは、佐田金治(さだかねはる)。
もう一人は女性の田中朝美だ。
金治たちは、Sという大企業の下請け会社に勤めている。
三人は同期入社であり、入社七年目だった。
今年の一月に結婚したという先輩の真由美は、入社時から三人の教育係であったが、週末には飲みにも行くという仲間だった。
「ソファー、適当に座って」
金治はどきどきしていた。
ーーずっと、真由美に思いを抱いていたからだ。
スーツ姿しか見たことのなかった彼女の、部屋着。上下セットアップの、黒のトレーニングウェア。いつも仕事ではひとつにまとめて縛られている髪が、今日はハーフアップになっている。
いつもと違う姿にどきどきしつつも、真由美と夫が暮らすであろう部屋にいるのは少し苦痛だった。
管理職をのぞいては、苗字が変わるまで金治たちにも知らされず、式も身内だけで執り行ったという。だから、相手がどんな人なのかもよくわからない。
職場で苗字はそのままで通しているし、実感がなかった。だが、この広い部屋を見て正直金治は落ち込んでいた。
「そもそも付き合ってたのもあたしたち、知らなかったしー!うまく隠してましたね、先輩!」
「ほんとだよな!俺らいつも週末飲みに行ってたのに!」
がはは、と笑いながら秀次が朝美の相槌をうつ。
「ま、出向しちゃったから、ひとりなんだけどねー!今日は飲みましょ!」
(だから、何だか荷物が少ないのか…)
金治は少し安堵した。おそらく、見るのが嫌なものを見なくて済むだろう。