満たされる身体-4
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電車で二人で帰る間、二人はほとんど会話をしなかった。
何てことをしてしまったんだろう。
何てわがままを言ってしまったんだろう。
そんなことばかりが、金治の頭をループする。
金治は気がついたら真由美の部屋の中で、ソファーに座っていた。
「お腹減ってるだろうけど、先にシャワー浴びてきていいかな。電車だったし汗だく」
今日、何事も無かったかのように真由美は笑ってバスルームへも消えていった。
真由美が風呂から上がると、金治もシャワーを浴びた。
二人はソファーに座ってビールの缶をあけたが、金治はそれになかなか手をつけることができなかった。
テレビがついているが、その音も耳に入ってこない。
しばらく二人の沈黙が続いたあと、真由美が口を開いた。
「ねえ、今日佐田くんのわがまま聞いたんだから、肩揉んでよ」
「え…」
真由美は有無を言わさず、金治の方に背を向けた。
真由美はタオルドライした髪をクリップでハーフアップにまとめ上げ、黒いTシャツに、グレーのジョガーパンツ姿だった。
「仕切り直し。まるで…会社でマッサージしてもらったときみたいだね」
クスクス、と真由美は笑った。
真由美の言葉に、思わず金治の胸が高鳴る。
オフィスで寝てしまい、起こしてくれた真由美にマッサージしたあの日を思い出した。
「わかりました…」
そっと親指を真由美の肩の上に乗せる。
親指で、ぐぐっと肩を押してコリをほぐすようにマッサージしていく。
「そこ…ん。気持ちいい」
あの日、真由美はレイプした張本人の金治と二人きりになって、マッサージを頼んだ。
その出来事は今のこの状況とリンクしていて、真由美自身も「仕切り直し」と言っている。
きっとチャンスを与えてもらったのだ、と金治は解釈した。
だから「仕切り直し」してみようと思った。
「これ…セクハラになっちゃいませんか?」
真由美はこの言い回しにピンと来たのか「あたしが強要してるってこと?」と笑いながら言った。
「今日…思ったんですけどガーターベルトじゃなかったんですね。普通のストッキング…」
「気分上げたい時にはいてきてるからさ。今日襲われるなんて思ってなかったんだもん」
「えっ…」
「女性は下着で結構気分が上がるからさ。
可愛い下着つけてたら今日頑張ろうって思えるのよ。それに、佐田くんとしたいときもね?」
肩を揉まれながら、真由美は平然とそんなことを言う。
今までそういう下着しか見たことがなかったのは、彼女にとって「佐田くんとしたいとき」だったからだったのか、と金治は理解した。
「じゃ、じゃあ…初めてオフィスで…その、マッサージしたときも…」
「それは愚問。恥ずかしいから聞かないで」
そんなことを言われたら、自分の下半身に熱が集中してしまう。