満たされる身体-2
咄嗟のことで真由美の頭がついていかなかったが、金治は後ろ手で更衣室の内鍵を締めた。
「ちょ…っと、佐田くん…?」
思わず、後ずさりする。
いつもと雰囲気が違う。真由美はそう思った。
どこか目がうつろで…焦点が合っていない。
「うちは全員帰ったと思ったけど…他部署に他の女子社員がいるかもしれないから…まずいよ、ちょっと…」
金治は後ずさりする真由美の腕を強引に掴むと、ドアの左手の壁にくっついた状態で置いてある長椅子に、真由美の体を押し倒す。
真由美の体は震えている。
「…佐田くん、落ち着いて。自分が何してるかわかってないでしょう。何があったの」
こんな状態の金治に対しても、努めて冷静に問いただす真由美を憎く思った。
「土曜日…旦那さんといたんですか」
「土曜日…?朝美ちゃんに聞いたの?
夫を優先したのを怒ってるの?当然か…。人から聞くのは、嫌だよね。
あたしが言うべきだったよね。
…夫に佐田くんのこと話してて、ゲイだと伝えてるとしても、リスケしたことについては、きちんとフォローすべきだと言われた。それをしてなかったから怒るよね。ごめんなさい。夫のことを言わない方がいいと思ったから」
真由美がこの状況を冷静に判断して、謝罪する事実がさらに苦しかった。
自分ばかり冷静でいられなくて。
この状況をボロボロになじられたら自分が謝ったのに。
(この人は、どうしてこんなにーーーー)
「次いつ会えるかわからなかったから、食事をしたの。佐田くん、嫌な思いをしたならごめん。……あっ!」
金治は、ジャケットを着ていない真由美の白のカットソーをめくりあげた。
真由美は下着が透けないように、カップ付きのベージュのキャミソールを身につけている。
「やめて。落ち着いて、佐田くん」
金治は腹が立った。冷静でいられない自分に。
それを真由美にぶつけようとしていた。
「ーーんんっ、やだ、佐田くん。人来ちゃうかもしれないから」
そんな言葉を聞かず、真由美の唇に無理やり唇を押し当てる。
「んっ、ん…!はっ…」
無理やり唇を押し当てられて、真由美は息苦しかった。
「今日、あんなに欠伸して…そんなこと言っときながら、昨日ヤッてたんじゃないですか?」
もし真由美が夫とセックスしていたとしても、金治にはそれを責める権利すらない。
わかっているのに、酷い言葉を吐き捨ててしまう。
「夫とそんなことするはずないでしょう?
昨日は会ってない。昨日の新幹線で大阪に帰ったから。
何でそんなに怒ってるの?ここでこんなのはダメ。やめなさい…!や、やだっ」