満たされる身体-1
ーー橋口優希(はしぐちゆうき)と真由美が寝た翌日。
さすがに真由美は寝不足で、しかも電車で通勤したとあって、いつもより疲労度が高い。
ランチの後、真由美は欠伸の回数がどうしても多くなってしまった。
オフィスの隅の、パーテーションで区切られた休憩室で新聞を読みながらココアを飲みながら金治が休憩しているところに、朝美がニヤニヤしながらやってくる。
この休憩室に、他に社員はいなかった。
「どうしたの、そんなにニヤニヤして」
金治は新聞を折りたたみ、テーブルの上に置き直す。
「ねえ。真由美先輩、今日電車で来てるんだよ。すごい欠伸してるしさ〜」
「それがどうしたの?昨日酒でも飲んだんじゃないの?」
「絶対旦那さんだって」
小さな声で朝美は言い、金治の隣に座る。
「土曜日、男といるとこ見ちゃってさ。真由美先輩に聞いたら旦那さんだって。久しぶりの再会で、絶対ラブラブしててあんなに欠伸してるんだと思う〜」
朝美はいやらしいことを何か言いたげにクスクスと笑う。
(土曜日…?)
金治と元々食事をしようと約束していた日だったが、急に予定ができたと日曜日に会っていたのだった。
自分の予定より、ゲイとはいえ夫との約束を優先させたことに、金治の胸がチリチリと焼けるような感覚に陥る。
(いや、当たり前だろ、俺より旦那さんとの約束を優先させるのは。俺、こんな面倒くさい男だった…?)
そして、もし昨日、夫と会っていたのだとしても性交渉などあるはずがない。
そうわかっているのだが、心のどこかで納得していない自分がいた。
「そんな下品なこと言うなよ。夫婦なんだから、もしそうだとしても当然だろ」
不機嫌そうに、朝美に言い放つ。
「いいじゃん、このくらいの下ネタ〜」
「昼間にそんなこと言うんじゃねーよ」
珍しく言葉遣いが悪く、金治の機嫌の悪さに朝美はさすがに気づく。
自分の物言いのせいで不機嫌にさせたのだと思い、「ごめんって」と謝って、休憩室から出ていった。
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十九時頃。
退勤しようとしている真由美は、女子更衣室の中で自分のロッカーの鏡を見ながら化粧直しをしていた。
(電車で帰るからさすがにね…)
いつもなら車で帰るため、化粧が崩れていたとしても人に見られることはほとんどない。
そんなとき、コンコン…とドアをノックする音がした。
更衣室をノックするなんて不自然だなと思いつつ、ドアを開ける。
ドアを開けると、そこには金治が立っていた。
「佐田くん…?ちょっと、どうしたの…?今他に女子社員いないけど、さすがに女子更衣室は…」
そう言いかけた時真由美の体を押して、金治が更衣室に入ってくる。