寂しい身体-4
緊張のせいか、はじめに席に置かれたビールをごくごくと、ほぼ半分ほど優希は飲んでしまった。
真由美が適当に頼んだホルモンや肉は、優希にとって本当に美味しく感じられた。
真面目でいて、端正な顔立ちをした真由美がホルモン屋に行くというイメージが優希にはあまりなかったのだが、いわゆる女子力が高いのいうのとは異なって、かなり馴れた手つきで焼いてくれる。
「今日は、旦那さんは…?」
酒をいくらか飲み、やっと饒舌になり始めた頃、優希は真由美に聞いた。
「ん〜?夫はね、今大阪に出向中なんですけど、今日は都内に仕事でいましたよ。現場監督の男の子とご飯行くって連絡はしておきました」
「そうなんですね…結構、飲みに行ってるイメージだったので、どんな感じなのかなあと思ってたんです。普段は大阪にいらっしゃるんですね。
わりと結婚したばっかりだったような気がするんですけど…寂しくないんですか?」
「橋口さん、それは愚問ですよ」
真由美は自らの口元を人差し指でおさえ、シーっのポーズを取る。
「ごめんなさい…。嫌な質問でしたよね」
「大丈夫です。やっぱり気になっちゃいますよね。でも一昨日、久しぶりに会ったんですよ」
真由美は笑っていたが、心做しかその笑顔から悲しさが伝わってきたように優希は思った。
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「…かなり飲んじゃったんで、僕、近くに泊まろうと思います。家から行くより、この駅から現場行く方が近いですし」
時刻は二十三時を過ぎていた。真由美が会計を多めに払おうとしたが、「僕が誘ったから」と結局優希が全額支払った。
真由美から見て、優希はいつもの大人しい感じがなくなって、陽気になっている。
「橋口さん、具合は悪くないですか?飲ませすぎちゃいましたかね」
「大丈夫です。明日は少し二日酔いかもしれないけど」
優希はニカッと笑う。
「今日、すみません。ご馳走になってしまって。あたしが払わなきゃいけない立場なのに…」
「いえ、今日は僕が誘ったんですし、仕事の延長ではなくプライベートということにしておきましょうよ。
ーー僕、すごく楽しかったです。
僕、わかると思うんですけど口下手で。全然話できないから、いつも気使ってもらって嬉しかったんです。きっと会社でもこうなんだろうなあって。今日は僕も仲間に入れて貰えたみたいで、本当に嬉しかった」
「それなら、良かったです。
あ。駅の近くのホテル、安いところ案内しますよ。この時間からでもチェックインできるはずなので」
「わあ、本当ですか。何から何までありがとうございます」
上機嫌になっている優希の腕に、真由美は右手を絡ませた。
ビクッと優希は体を縮ませ、腕を強ばらせている。
「コンビニで少しお酒でも買って、ホテルで少し飲みませんか?」
「えっ…あ…。時任さん、それは良くないんじゃ…。時任さん、明日は車で通勤でしょう?」
「ふふ、二日酔いなら電車で行きますよ。大丈夫です」
「わか…りました…」