犯される先輩を想像して-2
リビングへ出ると、お湯が沸いていたらしく、金治が自らインスタントコーヒーを二つのマグカップにいれて、お湯を注いでくれていた。
「すみません、勝手に入れちゃいました」
「ん、ありがとう」
真由美は金治の隣に座る。
金治は心配そうに、真由美の顔をじっと見つめた。
「あんまり、見ないで。今日、顔本当にダメだから。寝すぎて、浮腫んでるでしょう」
「トイレ行くって言ったあと…何かあったんですか」
そう聞かれ、真由美はマグカップに伸ばそうとした手を思わず引っ込める。
「急に…何で?」
「多分、泣いてたんだなとは思ったんですが…」
「ーー泣いてた。あたしだって色々あるわよ」
真由美はそう答え、マグカップを手に取り、熱いコーヒーに口をつける。
「その、あの…」
「何」
思わず、面倒くさそうに真由美は言い放つ。
金治は何か言いづらそうに、だがとても真剣な顔をしていた。
ぐっ、と口を一文字に結んだかと思うと、意を決したかのように、口を開いた。
「有給申請なさるとき、スーツにかなりシワがついてました。ジャケットにも、スカートにも。
時任先輩のスーツにあんなにシワがついてるのは、見たことがありません。そういうの、人にどう思われるか、とても気にするじゃないですか。それに、トイレに行く時にはついてませんでした。何があったんですか」
あの短時間で、金治はそこまで見ていたのかーー
真由美はそのことに、嬉しくもあり、悲しさをも覚えた。
あの若い男は警備員をやめるというし、情けなさすぎて、誰にも言うつもりはなかったのに。
金治の優しさにぽた、ぽた…と目から涙が溢れる。
「今回のは、自業自得…」
「今回の「は」って、まさか……」
「知らない男。警備員」
真由美は泣きながら、情けなくてもはや笑ってしまう。
金治はとても心配そうな顔で、眉を八の字にさせて、真由美の顔を覗き込んだ。
「それこそ管理職に言ってもおかしくないようなことでは…。もちろんそんなことされたなんて、また知られたくないでしょうが、そんな男が会社にいるなんて」
「ううん、今回のは本当に自業自得なの。
個室に押し込まれてもおかしくないようなことしてた。トイレでオナニーしてたの。男に丸聞こえだったってわけ。佐田くんに声かけられた時、体調悪かったんじゃなくて、やらしーこと考えてただけなの」
「だからって…」
金治は震える真由美の手をそっと握る。
「俺……人のこと言えないですけど。
もし先輩が肌を露出させてたり、もし自慰行為していたのを見聞きしてしまったりしたとしても、誰かが先輩を乱暴していい理由にはならないです。自業自得なんて俺は思わない」
「ふふっ、本当に佐田くんは人のこと言えないよねえ…あたしの肌が露出しちゃったの見て、襲ってきたからなあ」
「だから、人のこと言えないって言ったじゃないですか!」