投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

つまみぐい
【その他 官能小説】

つまみぐいの最初へ つまみぐい 18 つまみぐい 20 つまみぐいの最後へ

愛しいマスコット-7


「白石さん、大丈夫?」
 と、謎の人影が声を発した。それは果歩にも聞き覚えのある頼もしくて凛々しい声だった。
「倉木さん、どうして……」
「魔王に捕らえられたお姫さまを助けに来た、とでも言おうかな……なんてね」
「んもう、来るのが遅いよ」
「ごめん」
 そう言って倉木は果歩の痛々しい手足を自由にしてやり、羽織っていたジャケットも脱いで果歩の体に掛けてやった。
「ありがとう」
 果歩は恥ずかしそうに背中を丸めて苦笑した。こんな姿を憧れの倉木に見られるのは惨めだったが、彼の優しさに触れたことで急に涙が溢れてきて、ジャケットから伝わってくる温もりがとてもありがたかった。
「俺がアパートまで送るよ」
「うん」
 物陰に身をひそめて着替えを済ませた果歩は、倉木から受け取った自分の荷物を確かめながら彼の正体について整理してみた。
 一つ、クッキーと名付けたクマのぬいぐるみがバッグの中から消えている。
 一つ、彼の名前は倉木。
 一つ、クッキーの右のほっぺにあった赤い染みと、倉木の右頬の絆創膏。
 これらの偶然は果たして何を意味しているのだろう。
「ねえ、倉木さん」
 果歩は迷いつつ彼にたずねた。
「何?」
 不思議そうな顔で見つめ返してくる倉木。
「……ううん、何でもない」
「そっか」
「うん」
 果歩は笑ってごまかした。クマのぬいぐるみが人間の男性に姿を変えて出てくるなんて、そんな現実離れした話を口にする勇気がなかったのだ。もしかすると童話の世界でなら通用するのかもしれない。
 そう、現実の外の世界でなら……。

 果歩と倉木の二人がアパートに着く頃には、東の空がうっすらと明るくなり始めていた。もうすぐ夜明けがやって来る。静かな町並み、交差点の点滅信号、夜勤を終えて帰る人々──あたりまえの日常がこうして変わらず営まれていることが今は愛しい。
「片付いてないですけど、どうぞ」
 果歩は玄関の鍵を開けながら倉木に目配せで合図を送った。
「おじゃまします」
 後から入ってきた倉木が慎重にドアチェーンを掛けるのを不審に思う果歩。うまく説明できないけれど何かがおかしい。そうして部屋の明かりを点けた途端、果歩は室内の異様な光景を見て驚愕した。
「嘘……」
 そこには、無数の写真で埋め尽くされた自分の部屋があった。よく見るとすべての写真に果歩の姿が写っている。雑誌を立ち読みする姿、女友達とコーヒーを飲む姿、信号待ちをする姿、それからトイレで用を足す姿や更衣室で着替えをする姿など、およそ二百枚を超える隠し撮り写真が壁という壁を占拠していた。
「どう? 気に入ってくれた?」
 その声に果歩が振り返ると、勝ち誇った顔の倉木がスタンガンを手にして立っていた。
「あたしのこと、ずっと盗撮してたの?」
「まあまあ、落ち着いて話そうよ」
「信じてたのに……あなたってほんとうに残念な人ね」
「自覚はないけど、まあ、君がそう言うのならそうなのかもしれないな」
 やれやれというふうに倉木が顎で合図を出すと、彼の後ろから二人の男がふらふらとあらわれた。一人は今朝の痴漢サラリーマンで、もう一人は先ほどまで果歩のことを凌辱していたあの男だった。
「まさか、そんな……」
 三人の男たちに取り囲まれて体を狙われる絶体絶命の果歩。上からも下からも正面からも腕が伸びてきて、体の大事な部分を意地悪くまさぐられる。そうして果歩の視界は暗転し、エクスタシーという名のめくるめく官能の媚薬が全身を駆けめぐる。
 倉木はクッキーではなかった。いろんな意味で裏切られたのだと果歩は思った。そしてお腹を空かせた狼たちとの新たな共同生活が始まろうとしている。
「さてと。それじゃあ若くて新鮮な女の肉をしゃぶらせてもらうかな」
 倉木が宣言すると、残りの二人の男が下半身を露出させて奇妙な準備運動を済ませ、とろけるような果歩の性器に群がって我先にと目的を果たしていく。
 ただし、ここは都会のエアポケットみたいな場所に建てられたアパートの一室。隣人との付き合いもほとんどなく、誰しもが強姦魔になり得る可能性を秘めている。
 消えたクッキーの行方はわからないが、果歩は絶望することなく仕組まれた罠を受け入れ、レイプされている自分に酔いしれるのだった。
 


つまみぐいの最初へ つまみぐい 18 つまみぐい 20 つまみぐいの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前