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つまみぐい
【その他 官能小説】

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花蕾の滴り-3


 その抜け道はゆるやかな上り坂になっていた。太陽が出ているので寒さもそれほど感じないし、光の反射で木々に付着した水滴がきらきらと輝いてとても幻想的だ。時折姿を見せる野鳥の羽音にびくびくしつつ、人家があることを期待して緑のトンネルをくぐっていく。
 果たして抜け道の先に大きな建物が見えてきた。廃墟……ではない。明らかに人の住んでいる気配がある。二階建ての外観は和洋折衷といったところか、門に近づくと鉄格子のような扉があり、そっと手をかけただけで簡単に開いた。
 次にあらわれたのが玄関のドアである。こちらは木でできていて、アンティークな彫刻がふんだんに施されている。家の主は芸術家なのだろうかと安直な想像がはたらいたが、すぐに取り消した。
 インターフォンを押す寸前で迷いが生じた。いかつい大男が出てきて猟銃を向けられでもしたら敵わない。こんな山奥に住んでいるくらいだから番犬だっているだろうし……参ったな。
「どちら様ですか?」
 突然、背後から声をかけられた。どきりとして振り返ると、門のところに一人の少女が立っていた。髪の長い、高校生くらいの可愛らしい顔立ちの女の子だ。
「うちに何かご用ですか?」
 円らな瞳に警戒の色を浮かべ、じっとこちらの出方をうかがっている。どうやら不審者だと思われているようだ。
「いや、その、けっして怪しい者ではないんです。ちょっと道に迷ってしまって」
 咄嗟に笑顔を繕って誤解を解こうとしたが、少女はきょとんとしたまま口を結んで首をかしげる。春色のスカートから伸びる素足の曲線がやたらと眩しい。
「じつは、幻の桜について調べようと思って来たんだけど、車が故障して帰れなくなったんだ」
 そのことを言うと、ああ、というふうに少女の唇が綻ぶのがわかった。門扉を閉めてこちらに近づいてくる。
「どうぞ」
 玄関のドアを開けて少女が柔らかく微笑む。声にも、そして肌にも透明感が行き渡っていて、年甲斐もなく甘酸っぱい気持ちが胸に広がるのを抑えられなかった。
「どうも、おじゃまします」
 あらたまって少女の横を通り過ぎた時、花の蜜を思わせる甘ったるい香りが鼻腔の奥をくすぐった。あどけない容姿は処女のようだが……いや、余計な詮索はしないでおこう。


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