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dream・road
【青春 恋愛小説】

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dream・road〜scene-3rd-9

龍矢は自分のグラスには目も向けず、席を立った。
ミゲルとのスパーリングのダメージが残っているのか、立ち上がったときに龍矢は軽いめまいに襲われたが、ダミアンに悟られまいと平静を保ってダミアンの横をすり抜けた。

『そんなに気に食わなかったか?』
「あぁ」
『次会うときはリングの上だな』
「あぁ」
『それまでに、立ちくらみの癖は治しておけよ』
「……!!」

ダミアンは龍矢にダメージがあることを見抜いていた。龍矢は表面には出さなかったがダミアンは感じとっていたらしい。
ダミアンの格闘家としてのただならぬセンスに龍矢は背筋に冷たいものを感じた。

『代金はおごっといてやる。代わりに後で勝ちをもらうぜ』

ダミアンの挑発を無視して龍矢は店を後にした。





龍矢が部屋に戻ると、リビングでマリアが椅子に背を預けながら眠っていた。

「…ったく、間違って落ちたらどうすんだ」

そう一人ごちりながら、マリアを起こそうとした時テーブルの上に何かを見つけた。
それは何かが書かれた紙だった。どうやら子どもの名前を考えていたらしい。男の子と女の子、両方の場合を考えていたらしく、紙にはびっしりと名前が書き連ねられていた。

中にはマリアの日本好きが災いしてか、『源二郎』やら『大五郎』だとか『六三郎』なども候補に上がっていた。

「六三郎って……」

マリアは全く起きる気配がない。しかし、何故だかその光景が微笑ましかった。

「もう少し寝かせといてやるか」

龍矢はそう言うと今日の夕飯の準備に取り掛かった。





休養をとってからの龍矢の練習は苛烈を究めた。
試合の日は冬、しかも日が隠れる夜なので寒さによって体が固くなるのは必至だった。
ダミアンに負けない柔軟性の会得、打ち負けないための筋力の強化、足運びの反復など只々基礎を徹底的に磨いた。

己の身体能力を限界まで引き上げる。そしてその練習の最中で自分の魂は研ぎ澄まされていく。

極限の肉体に練り上げられた魂が宿るとき、人は誰もが刮目する強さを、そして決して折れない心を手に入れるのだ。
龍矢が己を磨き終わったとき、ニューヨークは冬を迎えていた。


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