dream・road〜scene-3rd-10
十二月二十三日早朝、空を分厚い雲が覆っていた。
龍矢は目を覚ますと、軽めの食事をとった。部屋にはマリアの姿はない。
食事を終え、龍矢は病院へと足を向けた。
マリアは体が弱いため、大事をとって二週間ほど前から病院に入院していた。
医者の話だと、予定日を三日程過ぎているらしい。
試合が近かったが龍矢は気が気でなく、練習が終わると毎日マリアの所に顔を出していた。
軽いノックをして龍矢は病室へと入った。
「大丈夫かマリア?」
「タツヤ!うん、平気だよ」
「陣痛は?」
「大分間隔は短くなってきてるけど……」
「そっか……俺には陣痛は分からないからなぁ」
「大丈夫だよ!それより、試合はいつ始まるの?」
マリアは龍矢に心配を掛けぬよう、話題を変えた。
「一応メインイベントだから八時前後かな……」
「そっか、頑張ってね。ボクも応援してるから!」
「あぁ、マリアもな」
龍矢はマリアの顔前にゆっくりと握り拳を差し出した。マリアも倣(なら)って拳を出す。
コッ。
二人は軽く拳をぶつけあった。それに言葉はない。しかし、二人は言葉で語り合う以上にお互いを感じあった。
龍矢は微笑み、マリアも笑みを返す。それだけで十分だった。
「行ってくる」
「うん」
マリアに短く一言残して龍矢は病室を後にした。
ニューヨークの街並みはすっかりと冬の装いを纏(まと)っていた。木々には色鮮やかな電球がいくつも着けられ、街行く人の目を楽しませている。
龍矢はマリアが働いていた市場へと顔を出した。
『タツヤ!みんな、タツヤが来たぞ!』
リーダー格の子どもがそう言うと、何処からともなく人が集まってきた。
『タツヤ、チャンピオンになったらなんか食わせてくれよ!』
『賛成〜!』
「おう、任せとけ」
子どもたちや市場の店の人々と話を交すと、自然と体の硬さがとれていった。
子どもたちの目はとても輝いていた。龍矢が負けることなど微塵も考えていないのだろう。
カイが自分にとってのヒーローであったように、龍矢は子どもたちのヒーローなのだ。
(負けるわけにはいかねぇな……)
龍矢は市場の人々と別れ、街並みを歩き出した。