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dream・road
【青春 恋愛小説】

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dream・road〜scene-3rd-4

「てめぇが、カイを……!!」
『カカッ!当たり前だろ?バカなのかお前?』

男……ダミアンはより残虐なる笑みを浮かべながらカイを嘲(あざ)笑った。

『こんな奴が王者だなんて笑わせるぜ。お前ら弱すぎるんじゃねぇのか?』

龍矢はなにも言わずにダミアンへと歩み寄る。ダミアンも退きはしない。二人は視線をずっと外さない、お互いの額が付く。
ダミアンは明らかに侮蔑(ぶべつ)を込めた目で龍矢を睨んでいた。

龍矢はダミアンから離れると、リングに横たわるカイを抱き上げた。カイのその目は腫れ上がり、鼻が折れているのか血が止まっていない。

自分が目標としていた男が無惨な姿になり果てている。龍矢はカイを抱き上げた時、言いようのない怒りと悲しみを覚えた。目頭が自然と熱くなる。

「てめぇは、てめぇは…俺が必ずぶっ殺す。待ってろ……!!」
『カカッ!期待してるぜ、ジャパニーズ!』

龍矢はダミアンを睨みつけると、カイを抱き上げたまま控室へと運んでいった。





試合後、カイは近くの総合病院へと搬送された。ダニーとマリアも病院へと駆け付けた。

カイは命に別状こそ無かったものの、顎の骨と左腕を砕かれているためしばらくは絶対安静がとられるらしい。

ほんの少しならば面会が許されたので、龍矢はカイに会っていくことにした。
病室の扉を開け中に入る。カイはベッドに横たわっていた。

「カイ……」

龍矢は言葉を出すことが出来なかった。そこには、王者の風格を漂わせていた男の姿はなく、ただの怪我人にしか見えなかった。
敗北は、一瞬にして強者を弱者へと叩き落とす。その結果を、龍矢はまざまざと目の前で見せ付けられたような気がした。

『Take……』
「カイ、喋るなってナースが……」

顎を砕かれているためか、カイの声は酷く不鮮明で小さかった。龍矢が聞き取ろうとするために近くによったのを確認して、カイはもう一度喋った。

『Take over my dreamroad……(俺の夢の道を受け継いでくれ)』
「カイ……!」

カイはそれ以上は何も言わず、静かに目を閉じた。
龍矢はカイの手に自分の手を重ねると、目を閉じているカイに話しかけた。

「今は……今はカイの夢は俺が預かる。だから、今はゆっくり休んでくれ」

龍矢は言い終わると、足早に病室を後にした。これ以上カイの姿を見ていたら、自分は泣き崩れていただろう。

龍矢にとって、カイは英雄だった。どんな悪者にも、強者にも負けない無敵のヒーローだった。
ダミアンに叩き潰されたカイを見た時、龍矢は自分の存在自体を否定されたように思えた。

だからこそ、ダミアンを許せなかった。そして、そのヒーローを倒したダミアンに、少なからず戦士として尊敬の感情を抱いてしまった自分自身を許せなかったのだ。

病院の白い廊下を歩きながら龍矢は自分の拳に目を落とした。
この拳には今までに出会った何人もの想いが、カイの夢が詰まっているのだ。そんなことを思うと、自然と拳に重みを感じた。


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