dream・road〜scene-3rd-2
【アレン・ゴールドバーグVSダミアン《デスサイズ》ロペス】
『知り合いでも誘って見に来てくれ』
「……あぁ」
『コイツを倒して、俺は名実共に完璧な王者の名を得る。そしてお前と闘う。それが俺の夢だ』
ダミアン《デスサイズ》ロペス……龍矢が体調を整えてる間、龍矢を抜いてランキング一位に昇りつめた男である。
カイは僅かに残っていたカフェオレを飲み干すと、龍矢に前に握り拳を出した。
『タツヤ、誓え。お前も万全の状態で俺と闘うと』
龍矢は胸が熱くなった。決して優しくしたりせずに、ただ闘うことだけを伝える…それはカイが対等に自分を見てくれているなによりの証拠だった。
「あぁ、任せとけよ。そっちこそヘマすんじゃねえぜ」
『フッ…生意気になりやがって』
ゴッ。
お互いに拳を合わせた後、カイは店を出ていった。
その後ろ姿が、カイの戦士としての最後の姿だった。
仕事が終わり、龍矢は自分の通っているボクシングジムへと来ていた。挑戦者ダミアンのことを調べるためである。
「ミゲル、いるか?」
「……今日は休みのはずだが」
ミゲルはくたびれたソファにもたれかかりながら、練習生たちの姿を見ていた。龍矢も横に座り話し始めた。
「ダミアン」
龍矢の言葉にミゲルの眉が微かに動く。
「どんな奴なんだ?」
ミゲルは暫く押し黙った後、口を開いた。
「俺は三年前知り合いの手伝いでメキシコにいてな。そこであいつに出会った」
「会ったことがあるのか!?」
「俺は身震いしたよ……あいつは化け者さ」
「そんなに強いのか……」
ミゲルは、その理由を話してくれた。
「後にも先にも一回きりだ。ボクシングを始めて三ヶ月の素人が、スパーリングで国内王者を倒したなんてな」
「なっ……!?」
「あいつは白人と黒人の混血でな。白人の恵まれた骨格に黒人譲りの筋力とバネ。そして、周りの環境が奴を悪魔に仕立て上げた」
「悪魔?」
「ボーイ…今ここで、オレを殺せるか…?」
ミゲルの言葉に龍矢は思考回路が追い付かなかった。
「は?ミゲルなに言って……」
「あいつは殺せる。自分の利益にならない奴ならな」
「だから、強えぇってのか…?」
「前にも言ったがボクシングは競技じゃない、命の奪い合いだ。あいつの住んでいた環境はそれを奴に叩き込んだ」
野生というのは、いつも目をギラつかせている奴が持っているわけではない。本当の野生は、自分が絶体絶命の窮地に追い込まれたときに発現する。龍矢は、それを十二分に承知していた。