dream・road〜scene-3rd-11
まだ会場入りまでには時間があったので、龍矢は近くを回ることにした。
初めてニューヨークに来た時の港、いつも汗を流した公園。マリアの働いていたシアター。そして、龍矢は一軒のカフェに着いた。
扉には「close」の看板がかけられていたが、構わずに龍矢は扉を叩いた。
キィ…。
扉が開き、店の中から出てきたのはダニーだった。
「タツヤ!?お前今日試合だろ、何やってんだ?」
「思いで巡りってやつだよ。中、入っていいか」
ダニーは龍矢を店に招き入れた。龍矢はカウンター席に座った。ダニーは一旦厨房へ消えたが、直ぐに戻ってきて龍矢の前にココアを置いた。多少量が少ないのは、ダニーなりの配慮だろう。
「ダニー」
「なんだ?」
「マリアの所に、いてやってくれないか?」
「タツヤ……」
「俺、勝つからさ。勝ってそっちに知らせに行くからさ。今日は、マリアの所にいてくれないか……」
「……オーケィ分かったよ。ただし、負けんじゃあねえぞ」
「サンキュー、ダニー……」
龍矢はココアを飲み終えると、店を出た。
ニューヨークに来てまだ二年も経っていないが、龍矢には故郷のように感じられた。
夢と希望に溢れた、眠らない街……。
龍矢は両手で自分の頬を張ると、会場に足を向けた。
すっかりと日の沈んだ景色をマリアは一人窓から眺めていた。
彼女は不安だった。もちろん、産まれてくる子どものことも心配だが、それ以上に龍矢が心配だった。
いつも試合前はこんな憂鬱な気分に教われる。
そんなことを考えていると、誰かがドアをノックしてきた。声を出し招き入れると、ダニーが入ってきた。
「ダニー!タツヤの試合見に行くんじゃなかったの?」
「そのタツヤにお前さんの世話を任されたのさ」
マリアは二人になったこともあり、多少心の糸が緩んだ。
だが、その時だった。
「うっ……!」
「どうしたマリア!?」
「ダニー、先生…呼んで」
「分かった!!」
ダニーはナースコールを押して、看護士たちに状況を説明し始めた。
この痛みは今までのものとは違う。マリアは本能的に察知していた。
「タツヤ……」
少女の口からは愛する人の名が出ていた。