聖夜の秘めごと-7
「沙耶は趣味であちこち旅行してるわけじゃないのよ。あれは沙耶のママがね、わたしから引き離すために無理やり連れて行ってるだけ。毎回失敗して、その日のうちに帰ってくるけどね。それにわたしも本当は会社経営なんてしてないの、全部父親が考えた作り話。だって、いい年の娘が昼間から女の子とそういうことしてるなんて、外聞が悪いもの」
全部、嘘ばかり。
ハリボテの現実。
嘘に嘘を重ね過ぎて、いったい何が真実なのか自分たちでさえもわからなくなっている。
晶の声は何を話していてもトーンが変わらない。
それが詩織を不安にさせる。
どうして平気な顔でいられるの。
どうして、こんな話をわたしに聞かせるの。
室内は温かいはずなのに、寒気がおさまらない。
踊り疲れたのか、沙耶が下着姿のままふらふらとよろけながら近づいてくる。
床に置きっぱなしになっていたワインボトルが倒れ、半分ほど残っていた中身が沙耶の足を濡らした。
沙耶は気にもとめていない。
ぺたり、ぺたり。
雪のように白い脚、赤い足跡。
口ずさんでいるのは、歌にもなっていない不思議なメロディー。
「楽しいね、晶ちゃん」
にこにこと微笑みながら、沙耶が膝から崩れるように晶の足元にへたり込んだ。
苦しい、といってブラジャーを外そうとしている。
詩織は焦ったが、晶は止めもしない。
ぷちん、と背中の金具が外れ、豊かな乳房がふるりとこぼれ出た。
見てはいけないと思うのに、きめ細やかな肌と小さな桃色の乳首に視線が吸い寄せられる。
身に着けているものが少なくなるほど、沙耶の愛らしさは際立っていく。
晶と沙耶がむつみあう姿が脳裏をよぎる。
ほんの一瞬、沙耶の柔らかそうな体に触れてみたいと思った。
その体温をこの手に感じてみたいと思った。
慌ててその考えを打ち消す。
わたし、いったい何を。
今夜は何もかもがおかしい。
心臓の鼓動が速まっていく。
むせかえるようなワインの香り。
高い位置で組んだ晶の長い脚に、沙耶がぺったりと体を寄せて頬ずりしている。
うっとりとした表情。
沙耶の右手は、彼女自身の両脚の間をそろりそろりと撫でている。
「ここ、熱いの。ねえ、すごく、あつい」
「悪い子ね、沙耶。自分で触っちゃダメだっていつも言ってるでしょう?」
晶の突き放すような口調に、沙耶は泣き出しそうな顔になって首を振る。
右手の指先は下着の内側に潜り込み、さらにその奥を触っているようだった。
「だって、気持ちいいの。ここ、ぐちゅぐちゅって……」
はあ、はあ、と沙耶の呼吸が乱れていく。
大きく開かれた太ももの狭間から、粘りつくような蜜音が聞こえてくる。
それでも物足りないのか、沙耶は左手で乱暴に自身の乳房を揉みしだいている。
すべてが夢の中の出来事のようで、まるで現実感がない。
晶は動揺する素振りも見せず、ただ艶然と笑っている。
「びっくりしたでしょう? いつもはふたりきりのときにしか、こんなことしないんだけどね。今夜は特別なの、許してあげて」
「と、特別?」
「そう。沙耶にとって最高に素敵なことがあったの。そうでしょ? 沙耶」
沙耶はもう何も聞いていないようだった。
床に寝そべり、顔を赤くしながら夢中になって淫液に潤んだ性器をいじっている。
だらしなく半開きになった唇からは涎を垂らし、ぶつぶつと何かを呟きながら。
その声にときおり、おにいちゃん、という言葉が混じる。
晶と目が合うと、嬉しそうに目を細める。
詩織は息もできないほどの胸苦しさを感じた。
「い、いいことって?」
詩織の問いかけをさらりと無視して、晶は自慰に耽る沙耶の足をソファーに座ったまま軽く蹴った。
沙耶は大げさなほどびくりと身を震わせ、怯えたような表情で手を止めた。
「いい加減にしなさい、詩織が見ているのよ」
「あ、あ……ごめんなさい、怒らないで、痛いのは嫌、怖いの、こわい」
背中を丸め、両手で体をかばうような仕草。
いやらしい沙耶、可哀そうな沙耶。
とっさに抱き締めてやりたいような衝動に駆られる。
彼女が満たされるまで、自慰の続きをさせてやりたいと思ってしまう。
沙耶に手を差し出しかけた詩織を見て、晶が意地の悪い笑みを浮かべた。
「沙耶、詩織が教えてほしいんだって。沙耶の大好きな、気持ちいいこと」
「詩織、ちゃん?」
沙耶の虚ろな瞳が、ゆっくりと詩織に向けられた。
いま初めて、そこに詩織がいるのを思い出したかのように。
「詩織ちゃん、大好き」
無邪気な笑顔。脈絡のない言葉。
白い肉体がゆっくりと起き上がり、這いずるようにして詩織の脚にしなだれかかってくる。
沙耶の肌は、暖炉の炎のように熱かった。
「詩織ちゃん、抱っこして。いい子にするから、ねえ」
小枝のように細い腕が、詩織に向けて伸ばされている。
どうしたらいいのかわからなかった。
晶は何も言わない。
詩織が動けずにいると、沙耶は「お願い、お願い」と繰り返しながら詩織のワンピースの裾を捲り上げて膝に唇をつけてきた。
やんわりと両膝の間が押し割られていく。
やめさせたいと思うのに、酒のせいなのかうまく力が入らない。
膝から太ももの内側へと、沙耶が顔の位置を上げていく。
詩織には、まだ異性との経験が一度もない。
他人にそんなところを見られるのも触れられるのも、生まれて初めての体験だった。
恥ずかしい、くすぐったい。
頬が熱い。
沙耶の手が下着に触れてきたとき、詩織はたまらず声をあげた。