聖夜の秘めごと-1
パチッ、と暖炉の薪が爆ぜた。
ちらちらと燃えているオレンジ色の炎は見た目以上に温かく、外は吹雪だというのに少しも寒さを感じない。
ずっとここにいられたらいいのに。
水瀬詩織は床の上で膝を抱え、揺らめく炎の様子をいつまでも飽きずに眺めていた。
「詩織ちゃん、そんなところで何してるの?」
月浦沙耶が不思議そうに首をかしげながら、詩織の真正面にぺたんと座って顔をのぞき込んできた。
くりっとした大きな瞳に小さな桜色の唇、それにふんわりとした栗色の巻き毛も、子供のころから変わらない。
こうしてパーティー用の華やかな赤いドレスを着ていると、映画の中に出てくるプリンセスのように可愛らしく見える。
詩織は自分の着古した濃紺のワンピースを少し恥ずかしく思いながら、再び暖炉に視線を戻した。
「だって、本物の暖炉なんて初めてだから。暖炉がある別荘に、しかもクリスマスイブに招待してもらえるなんて本当に夢みたいで」
「そう? わたしはこんな山小屋みたいなところより、本当は都心のホテルとかのほうが良かったなあ」
「山小屋で悪かったわね、沙耶はいつだって文句ばっかり言うんだから。去年はホテルだったけど、雪が見られないなんてつまらないって騒いでたでしょ。詩織、そんな子は放っておけばいいからもっと飲んで」
不満そうに口をとがらせる沙耶の頭を軽く叩きながら、須波晶がグラスを差し出してきた。
ほっそりとした指先、長い爪には凝ったネイルアート。
体にぴったりと沿うホルダーネックのドレスは光沢のある黒で、長身の晶によく似合う。
屈んだ拍子にさらりと肩に流れる艶やかな黒髪、ややきつい印象のある切れ長の目元も含めて、『美人』という言葉は彼女のためにあるのではないかと詩織は常々思っている。
皆に愛される可愛い沙耶と、どこにいても周囲の人々の視線を集める美しい晶。
特別な彼女たちと一緒にいられる時間だけは、絵に描いたように平凡で地味な自分も彼女たちの仲間入りできたような気がして気分が上がる。
やっぱり、今年も来てよかった。
楽しそうにじゃれあうふたりの間で、詩織はワイングラスの中身をちびちびと舐めながら微笑んだ。