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イノセント・ラブドール
【SM 官能小説】

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イノセント・ラブドール-9

あれ以来、学校でマイコさんと目を合わせることはなかった。翌年の春、ぼくたちは高校を卒
業し、ふたたび会うことはなかった。ぼくは友人からマイコさんが卒業後、この街から引っ越
していたことを聞いた。

ぼくは何度なくこの雨やどりの場所を訪れた。彼女への感傷はただの記憶となり、記憶の中の
夏空はぼくを甘美な陶酔にいざなったあのときの光を失っていた。

見上げた空を渡る雲はよそよそしくぼくを笑っている。渇いた風が頬をいくら撫でても、あの
ときマイコさんを濡らした雨がふたたび降ってくることはなかった。

ぼくはラブドールのオナホールにナイフを突き立て、掻き回し、えぐり、切り刻んだ。無残な
マイコさんの姿だった。異形に歪んだラブドールはただの残骸となり、ぼくは自分の中にある
美しい感傷を失った…。


………


…ぼくがお送りした動画を受け取っていただきましたか…マイコさん。ぼくが今、どんなこと
をしていたのかこの電話から聞こえてくる音でおわかりのことだと思います。もちろんぼくが
送った動画をあなたが見ていることが前提ですが。

きっと驚かれたことだと思います。もうひとりのあなたが動画の中にいるのですから。
ドイツの工房でぼくが特別に注文して作ったあなたのラブドールです。よくできていると思い
ませんか。

それにしてもやっとあなたを探しあてることができました。三十年ほど前、高校を卒業してか
らあなたをずっと探していました。あなたが卒業と同時に東京の大学に行ったことを聞いてか
らぼくもまた東京に向かいました。

憶えていますか、あなたと高校時代、雨宿りでいっしょにすごさせていただいたあのときを。
ぼくの名前なんてもうあなたの記憶のどこにも残ってはいないと思います。いいんです…ぼく
があなたにとって誰であろうと。


 偶然にも渋谷で見かけたあなたをずっと追ってきました。あなたがどんなところに住んでい
るのか、どんなところで仕事をしているのか、どんな男とつき合っているのか。あなたは気が
つかなかったと思いますが、ぼくはあなたが家を出てから家に帰るまで、あなたの後を追い続
けました。何日も、何週間も。

ぼくはあなたのことが知りたかった。失礼だとは思いましたがあなたのことは興信所を使って
すべて調べさせてもらいました。ぼくが知ることができなかった過去のあなたのこと。あなた
の結婚と離婚、そして、あなたの別れた旦那様のこと。それに十数年前のとても素敵なSMの
女王様時代の古い雑誌のあなたのグラビアさえぼくの手元にあります。

もちろんあなたがこれまでネットに投稿している小説もすべて読ませていただきました。


ぼくがあなたをどんな風に所有しているか、あなたがごらんになった動画でおわかりのことだ
と思います。あなたは今、この電話で自分の魂の肉声を聞いたはずです。ぼくの鞭で痛めつけ
られる、あなたというラブドールから洩れる快感に充ちたあなたの喘ぎ声を。

お恥ずかしいかぎりですが、今こうしてあなたに電話をしている最中もぼくはラブドールの中
で自慰を行っています。いや、自慰とういうよりあなたを犯しているのです。さきほど鞭打ち
にあわせたあなたのラブドールのオナホールを。



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