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イノセント・ラブドール
【SM 官能小説】

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イノセント・ラブドール-1

いったい、あなたは誰なの…。

週に必ず一回はかかってくる無言電話。出なければいいのに携帯電話に点滅する着信の光は、
けだるい黎明に包まれた私を脅迫するかのようにひきとめ、電話に出ることを強要する…。


一か月前、私に送られてきたふたつの短い無声動画。動画がとらえていたのは精巧に作られた
ラブドールだった。艶やかな肌の色をした裸の人形は、生きた人間のように映像の中から私を
虚ろに見ていた。

人形は驚くほど私によく似ていた。まるで私がわたし自身を見ているかのようだった。
私を見つめる眼、髪の形、顔の輪郭、鼻筋や唇…そしてカメラがとらえていたラブドールの
身体は細部にいたるまですべてが《私自身》だったのだ。

一つ目の動画はラブドールが肉質の白い肌を黒いロープで後ろ手に縛られ、天井から吊るされ
ているシーン…。ロープで柔肌を喰い緊められた人形は息をしているかのようにせり出した乳
房の先端をそそり立たせ、微かに悶えている。括れた腰に菱形に纏わりつくロープは下腹部に
這い、股間の翳りを縦に割り、深々と陰毛に沈み込んでいる。そして映えあがった漆黒の陰毛
はその形や毛並、そして毛先にいたるまで私だった…。

映像が裂かれるように、突然、襲いかかってくる黒い鞭にラブドールは苦しげに歪む。鞭は美
しい曲線を描き、しなり、たわみ、ラブドールのあらゆる部分に伸びていき、人形を虐げる。
数分のあいだラブドールは叩きつけるような鞭の連打に身が裂かれるほど、異形にゆがみ続け
ていた。

ふたつ目の動画は、首輪を付けられた裸のラブドールが犬小屋のような檻で四つん這いになっ
ている場面。その画面に重なるように顔の見えない男の下半身があらわになり、彼の掌によっ
て臓腑色の男のものが自慰としてしごかれている。

擦りあげられ、淫靡に屹立したペニスの先端から放たれた樹液が金属製の鈍色の皿に零れる。
ラブドールは顔を低くし、床に置かれた皿の中に滴ったとろりとした白濁液を今にも舐めよう
としていた。


今、私が手にしている携帯電話の先から洩れてくる音…。

それはあきらかにラブドールに振り降ろされる鞭の音だった。私が動画で見たことと同じこと
が電話の先で行われているのだ。鞭が空を切り、人形の肌にしなやかに撥ねる音…。何度なく
振り下ろされる鞭…。そして、そのあいまを縫うように聞こえてくる男のねっとりとした息づ
かい。いや、鞭の音と男の息づかいは故意にあとから重ねられたようにも聞こえた。悶えるよ
うな息づかいは男の自慰によって彼が洩らしている嗚咽に違いなかった。


電話を握り締める私の手に汗が滲んでくる。私は電話に向って発する言葉を失っていた。電話
の先には鞭に打たれる私がいるのだ…動画に写っているラブドールとなって。そして鞭を手に
しているのは電話の先の男に違いなかった。


不意に鞭の音が途絶える…。



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