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愛獄戯館
【SM 官能小説】

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愛獄戯館-4

ユミコさんといっしょに訪れたあの館は昼間でさえ人の気配のない下町の楼閣街の路地裏の一
角にあり、広い屋敷に建っている古めかしい建物は鬱蒼とした樹木に包まれていた。血色に塗
り込められた秋の夕陽が人通りのない路地に射してくることもあるが、いつもは灰色の静寂に
つつまれた館には陽の光を避けるように高い塀がめぐらされ、建物の陰影を朧に翳らせ、いか
めしい錆びた鋼板の扉には「愛獄戯館」と彫られた看板が掛かっていた。

看板の文字は蛇のようにくねっていたが、ユミコさんはその文字に視線を這わせながら、もし
かしたらわたくしたちにぴったりの名前かしらと小さくつぶやき、表情ひとつ変えることなく
酷薄な黒い瞳に微かな煌めきを宿したとき、ケイジロウの手を握った彼女の冷たい掌と細い指
が彼の手の中で卑猥に蠢いたのをケイジロウは敏感に感じとっていた。

わたくしには、夫がいることをお知りになりながら、それを承知であなたがわたくしを誘って
いただいたことに感謝いたしますわ、と耳元で囁いたが、カンシャするという言葉に、ケイジ
ロウはこの女の心に潜む何か奥深い、湿った淫情にふと触れたような気がして、思わずユミコ
さんの横顔を覗き込んだのだった。


古ぼけた館の入口には朧なガス灯が陰鬱な光を漂わせ、狭い板敷の廊下にはねっとりとした生
あたたかい空気が澱み、ここが色欲に充ちたいかがわしい場所であるのに、いつかあなたとこ
こに来たいと思っていましたわ、というユミコさんが、なぜそんな場所に自分を導いたのか、
ケイジロウは知るはずもなかった。

「愛獄戯館」の中に入ると、油気のない白髪がそそけだった、鶏がらのような首をした老婆が
出迎え、二階へと導く。案内された部屋はベンガラ色に塗り込められ、質素な調度品とベッド
以外に何もなく、窓は板の木戸で閉じられ、粗塗りの壁には大きな鏡が埋め込まれ、部屋の
すべてを写し出していた。

見てのとおり古い館でございますので、隣の部屋へ音が少々洩れますが、今夜はお隣の部屋に
お客様の予定はございませんので、存分にお楽しみになられてくださいと言いながら老婆は
初めてこけた頬をゆるませ、ふたりの容姿に舐めるような視線を這わせると、ユミコさんに
向かって、ときには若い男性が欲しくなるものですわねと、以前からユミコさんを知っている
ような、どこか含みを持たせたような言い方で彼女の顔を覗き込み、淫靡に咽喉を鳴らすと
足音もたてず部屋を出て行った。 


ふたりきりになるとユミコさんは顔色ひとつ変えず、鏡に向かって束ねた髪をゆっくりと解き
はじめる。解かれた黒髪がユミコさんのなだらかな肩に藻のようにひろがる。帯がほどかれ、
着物を脱ぐ衣ずれの音がするとしなやかな彼女のしぐさとともに長襦袢が肩からすべり落ち、
さらに白い湯文字が湯けむりのようにふわりと足元にひろがると、ケイジロウは白蝋を溶かし
込んだような肌をしたユミコさんの熟れきった裸体にごくりと咽喉を鳴らしたのだった。

麗しい横顔から続く首筋はあまりに白く、豊満な乳房のふくらみの先端には薄紅色の乳首が今
にも生あたたかい乳汁を迸らせんばかりにそそり立ち、ふくよかな体つきながらも締まった腰
のくびれはとても悩ましく、甘酸っぱい匂いを含んだ漆黒の繊毛は、まるで生あたたかく蒸さ
れたようにしっとりと映えあがり、宙に消え入るような毛先をふるふると微細に震わせ、むっ
ちりとした太腿のつけ根は恥じらうように閉じられている。

ベッドに腰を降ろしたケイジロウの前にすべてを晒し、じっと彼を見ていたユミコさんは、
羞恥の表情すら見せず、冷ややかな女の性がじわじわと忍び寄ってくるような不埒な彼女の
視線は、逆に彼女の裸を見せられているケイジロウの頬を赤らめさせ、彼自身を恥辱と息苦し
さへと誘うかのようだった。


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