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愛獄戯館
【SM 官能小説】

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愛獄戯館-13

テーブルの上には匿名の女から送られてきた色褪せた手紙が置かれてある…。

この手紙を受け取ってからすでに二十年ほどがたつ。手紙を送ってきた匿名の女はケイジロウ
が知らなかったすべてのことを伝えていた。

知らなかった…まさかユミコさんが子を孕んでいたとは。彼女が生んだ娘…その娘が手紙を
送ってきた匿名の女であることは察しができた。ユミコさんはあの事件を起こしたとき、すで
に身ごもっていたのだ。彼女が生んだ赤子は生後三か月で施設に預けられたまま育てられ、
その後、行方がわからなくなったユミコさんに生涯、引き取られることはなかったという。娘
であるその女の父親が自分なのか、いや、もしかしたらあの老翁なのか…もちろん今となって
はケイジロウの知るところではない。

ただ、手紙にそえられた写真…

幼女を抱いた匿名の女の顔は、どことなくケイジロウとあの老翁の面影を湛えているのだが、
何よりも驚いたことは、女が抱いた幼女の大人びた顔…幼女の顔でありながらもそこにはあの
頃のユミコさんがいた。いや、ユミコさんではないにしろ彼女にそっくりの顔をしていたのだ
った。顔は幼かったが、まるでケイジロウを愛おしく見つめるような黒々とした瞳は、あの頃
のユミコさんの生まれ変わりそのものであり、この幼女がユミコさんの血を引き継ぐ女である
ことに間違いないと思っている。

この幼女も、おそらく今は三十歳頃の年齢に達しているはずだった…。幼女の名前は、舞子と
名づけられていた…。


男を翻弄し、男に淫蕩な情欲をいだかせ、男を自在に変幻させる女ほど奥深いものはないと
言った老翁の言葉が、ケイジロウの脳裏に遠い過去から鮮やかに甦ってきた…。



………


エピローグ


私には「啓二郎」という名前の祖父がいたことを、亡き母から聞いたことがあるのだが、実の
ところ彼の顔すら知らない。十数年前にすでに彼は息を引き取っていたが、最近、この老人が
入所していた老人施設を訪れた。すでに彼の記録は消え、この手紙だけが彼の所持品として
残されていた。

手紙は亡き母が書いたものに間違いなかった。そして、添えられた古い写真の中の幼女…そこ
に写っていたのはまぎれもなく私自身だった…。

この古い手紙を偶然、手にしたことからこの物語を書くことになったのだが、そもそも亡き母
が、ユミコという女性と啓二郎、あるいは夫であった老翁のどちらのあいだに生れた子なのか
は不明である。もちろんユミコという女性がほんとうに存在したのか、どんな顔をしていたの
か私が知る由もない。


「愛獄戯館」… 今となってはその建物がどこに存在していたのか探すすべもないが、私の中
には、なぜかケイジロウと老翁のふたりの男の像が見たこともない館の幻影に朧に溶け、淫ら
に蠢く欲情の奥底を狂おしく擽り続けるのだった…。


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