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アゲハ
【その他 官能小説】

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レイラ-6

朝、私は携帯の着信音で目を覚ました。
『もしもし。』
電話の相手は栄祐。
<生きてるか??>
栄祐は私が犯されかけた事など想像もしていないだろう。
『死にかけたわ。』
<おいおい、冗談だろ。>
『マジかもね。』
私は冷たく言い放った。
<今どこだ??今日は非番だろ、何処かに買い物でも行かないか?>
そう明るく話す栄祐は今の私の状況を知ったらなんと言うだろう。きっとすぐに逃げ出せと言うに決まっている。
『私ね、暫くアンダーカバーの真似事でもしてみようかと思うの。』
<は??なんだよそれ。アンダーカバーって潜入捜査員だろ?内閣調査室かCIAにでもなったつもりか??>
私の言葉をまともに受け取ろうとしない栄祐に少しの苛立ちがこみあげた。
『私の仕事先に連絡しておいてくれない?私は暫く麻薬組織に潜入してきますって。』
まだ蓮が麻薬犯罪組織の人間と決まった訳ではなかった。だが、その可能性は高い。ならばその奥の奥まで潜り込み、徹底的に叩いてやろうと思った。
それに今逃げ出したとしたら、蓮は不審に思い、きっと私を探し出そうとするだろう。探し出された時、私の命はない。
<からかってんならもうやめてくれよ…。>
栄祐の声の調子が下がった。
『ごめんね。もう後戻り出来ないの。上司の永井にこう言っておいて、可能ならば報告の連絡を入れますって。じゃぁ。』
そう言って私は一方的に電話を切った。
永井は表だって女という理由から私を非難した事はない。むしろ職場の男達の中では好意を持って接してくれていた方だろう。だが、栄祐から私の事を聞けば激怒するに違いなかった。永井だけではない。日本の政府機関で私の今の行動を肯定する人間など誰もいないであろう。日本警察や麻取はアンダーカバー、つまり潜入捜査という捜査方法を公には一切認めていないのだから。
だが先にも言った通り、もう後戻りは出来ない。


私は一時頭の思考を止め、バスルームへと入った。
バスローブを脱ぎ体を鏡に映すと、昨夜蹴られた背中に大きなアザが出来ていた。
再びバスローブを着け、顔を洗ってバスルームを出る。喉が渇き、空腹感に気付く。
ベッドルームとリビングルームの境のドアを開けると、蓮がいた。
『いつきたの?!』
「ほんの少し前だ。」
ソファに座り、ルームサービスで頼んだとおぼしいコーヒーを飲んでいる。
「眠れたか??」
そう尋ねると蓮はポットからコーヒーを新たなカップに注いだ。
『おかげさまで。』
私はつかのま沈黙し、答えた。
「一体いつから危ない仕事をしている?」

私は蓮の向かいに座った。蓮はカップを私に押しやった。
『不良少女のなれの果てってヤツかしら。』
「なら俺と似たようなものだな。」
蓮は笑った。
『只の不良少年にしては腕が良すぎるわ。昨日のナイフ。』
「あれは日々の訓練の賜さ。こんな仕事をしてる以上毎日が修羅場だ。」
『どんな仕事なの?』
私はコーヒーのカップを口に運び尋ねた。
「毎日芝居をしてなきゃいけない仕事さ。」
そう言うと蓮は私を見つめた。鋭いが、それ故に全てを見透かしてしまうような眼差し。
「レイラ、君は芝居がうまそうだ。」
私は冷やりとした事を気どられないように、ゆっくり聞き返した。


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