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アゲハ
【その他 官能小説】

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レイラ-5

念入りな愛撫はなかった。わたしがベッドに移ると、蓮は衣服を脱ぎ捨て覆い被さってきた。強く抱き締められただけで私は息が荒くなるのを感じた。充分に潤っている。
蓮が入ってきたとき、声を抑えられなかった。首を傾けると死体が目に入った。それから首を背ける様に回し天井を見上げた。蓮の動きが激しくなり、目を開けていられなくなった。

蓮が体を離すとき、私はその目をのぞきこんだ。錯覚でなければ、その目には痛みのようなものがあったように思えた。
『――ありがとう。』
私は言って素早く体を横にした。蓮は無言で衣服を着けた。
着け終わると携帯を取りだし何処かに電話をかけはじめた。
「蓮だ。粗大ごみの処分を頼みたい。―――いや、屋内だ。――あぁ。よろしく頼む。」私は手早く着替えを済ませながら蓮の声を聞いていた。蓮は住所を伝えると電話を切った。
『どこに電話をしたの??』
訊かずにはいられなかった。
「友達さ。」
蓮は短く答え、つけ加えた。
「会社とは関係ない。」
より詳しく知りたい気持を私は抑えた。荷物を手にした私を連れ、蓮は店を出た。途中、私を個室まで案内したブロンド髪の男がいぶかしげな視線を向けてきたが、蓮の姿を見るなり直ぐに知らん振りを決め込んだ。

蓮はいつかの黒いコルベットで私を品川のシティホテルに運んだ。
「いつもの部屋を」
フロントにそう告げるだけでキィが現れた。サインも求められない。
いつもの部屋というのは38階にあるセミスイートだった。部屋に入ると蓮はすべての窓のカーテンを閉じた。部屋が暗くなると、私はようやく気持がほぐれるのを感じた。
「シャワーを浴びろ。」
蓮は言った。私は頷きバスルームに入った。
改めて蓮と2人きりになったことに対する緊張感はなかった。蓮にはこれまで2度命を助けられている。
死がどんなものか、深くは考えないことにしている。特に仕事中には。
非番のとき、自宅で、寝返りを打ったか何かした弾みにふと目覚める事がある。そんなとき、死を考える。背中がうそ寒くなるような不安、これまでいくつか見てきた死体の1つに自分が混じっているのを想像する。
無意味だとはわかっている。どれほど惨めな死様を想像しようと、あるいは綺麗な死様を想像しようと、自分では見られない。
毛布を巻き付け目を閉じる。それでも眠れなければ冷凍庫のウォッカか、睡眠薬の力を借りる。
1つだけ確かなのは、死は恐れていても、この暮らしの終りを望んではいない、と言う事だ。
体を温め、全てを洗い流した私はバスルームを出た。蓮の姿は無かった。代わりにメモが残されていた。

―――――――

仕事の話は明日だ。

ゆっくり休め。

―――――――

そう記されていた。
蓮はわかっていたのだ。私が蓮を求めた欲望はあくまでもその場限りの物に過ぎなかった事を。だからこそ全てを洗い流した私と2人きりの時間の共有を拒んだ。
そしてもう1つわかっている事がある。蓮がそういう人間だからこそ、自分も欲望をぶつけられたのだ。これが栄祐だったら、もっと違う形になったろう。
バスローブのままベッドに体をすべりこませ、私は思った。栄祐ならば、愛撫をしたがったにちがいない。だがあの時のsexはそれを必要としなかった。いや、されようとしたら私は拒んでいただろう。
私が求めていたのは快感ではない。鎮静なのだ。蓮はそれを知っていた。道具として体を求められた事に気づき、道具として提供した。だから私の感謝の言葉も無言で受け入れた。栄祐には多分、それは理解できない。
だが、女を幸せに出来る男がどちらか考えれば、答えはきまっている。蓮ではない。
蓮はきっと過剰に愛する事は決してない。栄祐はそれをする。
男を本気で愛したら女は過剰な愛を求める。
私は目を閉じた。今は眠ろう。続きは何かが始まってからだ。


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